回避不可能。
夜の道を、ぼくたちは車で走っている。
無免許だと言う竜崎は、しかし、存外安定した走りを見せている。
郊外、灯りの殆ど無い田舎道で、一瞬だけヘッドライトに照らし出され過ぎ去ってゆく道は
どこまでも続いているようにも、今この瞬間にも途切れてしまうもののようにも見えた。
窓の外、周りの雑木林は魔女の腕めいて痩せた枯れ枝で、星一つ無い夜空を嘗めてゆく。
「暗いね」
と ぼくは呟いた。
「ここはどこだ」
「わかりません」
「ぼくたちはどこに向かっている」
「わかりません」
「…おまえは何でもわかっているとばかり思っていたよ」
そう言ってやると、竜崎は声を出さずに笑った。車は相変わらず一定の速度で走り続ける。単調な道だ。
ぼくたちはどこから来たのか、ぼくたちはどこへ行くのか。
…思い出せない。
そう呟いたのは答えが欲しいからだったが、返ってきたのは無慈悲なまでの沈黙だけだった。
焦れたように隣を見やっても、竜崎は微動だにせず前を向いたまま。
不意にその無表情を崩してやりたい衝動に駆られ。
ぼくは、
竜崎に
くちづけた。
あいつはその暗く深い瞳に針の先ほどの動揺も見せず くちづけを返す。
やめろ、見るな。ぼくをみるな。
ぼくは片手で竜崎の首を抱き寄せながら片手でその目を塞ぐ。
竜崎が口の端で何か呟いた、けどぼくはその呟きすら奪い去るように深く、ふかく くちづける。
歓喜に、恐怖に、わななきながら、ぼくは竜崎に体を預けると その足の上に―アクセルの上に―足を乗せ、
思い切り踏み込んだ。
果ての無い接吻に身を任せ、このくらい道を、ぼくらは全速力で走り抜けてゆく。
もう何も見えない、最初から何も見えてなどはいない。お互い以外の何も。
そうして間もなくぼくらは共にあの木々の中で息絶えるだろう。
この速度に耐えかねて、ぼくたちのからだは砕けるだろう。
でもこの時は。今、 この時は・・・・・・・・・・・ ・ ・ ・
…目覚めると、見ていた夢の内容は綺麗さっぱり忘れてしまっていた。隣の竜崎がぽつりと、呟くように 言う。
「ずいぶんとよく眠っていましたね、月くん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう。」
ぼくは辺りを見回した。
夜の道を、ぼくたちは車で走っている。
「暗いね」
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無限ループの夢。
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