あ な た に あ い た い 。
ワルプルギスの夜
Side.L
月が地表を這うように昇り始めたのを確かめると、私はこの夜に身を投じた。
今宵はワルプルギス。幽鬼に死神、魔女、悪魔…あやかしの飛び交う魔の夜。
わたしが目指すのは他のどこでもない、あなた。
この想いを妄執と呼ぶのなら、今の私はその妄執に生かされている。
私は私を死に追いやった傷に執着している。
私の身は朽ちても心は朽ちず、この傷が癒えることは永遠に無い。
しかしそんなことはどうでもいい、現し世の全ての事柄はもう私に何の関係も無い、ただ、あなたに、逢いたい。
こうなってしまったことを後悔してはいない。
生まれ変わりなど信じていないが、例え生まれ変わっても、望む生を選ぶことができたとしても、
もう一度。もう二度。もう三度。
何度でも私は同じ運命を選び取るだろう、それを欲するだろう、望むだろう、私は。
私が選ぶのはたったひとり、どうしようもなく救いがたいあなたひとり。
ただ 今、むしょうにあなたに逢いたい。
Side.Light
四月三十日だった。
ぼくが紅茶を淹れると、彼は常と変わらぬ姿勢でカップを受け取り、ふうふうと暖かな湯気を吹いてみせた。
それでぼくはいともすんなりとこの現実を受け入れることができた。
彼が そこに 居る という現実。
何となく安心して、ぼくは何か言おうとしたけど、何を言うべきなのかは判らなかった。
彼はと言うと、静かにこちらを見つめるだけで、ぼくはいささか途方にくれて口を切った。
「久しぶりだね」
答えは無く―
沈黙が、時を制する。
ぼくはそのままずぶずぶと静けさにのめってしまいたかった。
でも彼の瞳、静かな瞳はそれを赦さなかった。
ぼくは目を瞑り、一呼吸置くと、努めて平静なふりをして言葉を継いだ。
「来てくれるとは、思わなかった」
静かな、静かな瞳。今ここにある現実の狂おしさがだんだんとよく解ってきて、叫びだしてしまいそうになる。来てくれるとは思わなかった。来て欲しかった。そうとも、いつだってぼくは、お前を待っていた。
でもそんなぼくの気持ちなどお構いなしにこいつはぼくに尋ねる、何食わぬ顔で。
「殺 す というのはどんな気持ちですか」
容赦など するはずも無く。死んでも変わらぬ彼の様子にぼくは奇妙に安心していた。そして答えた。
「殺すというのは 生 き る のに似ているよ」
お前に出会うちょっと前まで、ぼくは別のものを殺すのに必死だった。
退屈、という化け物を相手に、緩慢に蝕まれる前に、生きるために、ぼくは。ぼくは。ぼく は。
「…ぼくは、お前こそがぼくを殺してくれると思っていたのだけれど」
「ご期待に沿えず残念です」
「まったくね」
その声に失望は含まれていなかったはずだ。なのに竜崎はほんの少しだけ顔を歪めた。
それでぼくはなぜだか堪らなくなって、言ってしまったのだ。
「…こんなことになるとは思っていなかった」
「嘘でしょう」
「君がいなくなって本当に悲しい」
「見せかけです」
「ぼくは君を好きだったんだ」
「欺瞞ですね」
彼の言葉はいちいち深く、やさしくぼくの心を突き刺していくようだった。
「あなたは本当に、救いようがない。」
彼はやさしく、殆ど愛を思わせる声音で呟いた。
「本当に、あなたほどどうしようもなく救いがたい人は他に居ない。」
…そう。
ぼくは知ってる、
この世で最も救いがたいのは悪人でも、堕落した者でもない。そんなことはよく知っている。
知っているんだ。
言うなればぼくにこれ以上の真実はないです。
だからどうかこれ以上ぼくを掘削しないで。
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「「おまえだけを求めているよ、いつまでも」」
ワルプルギス(4/30)ネタ、半年遅れでハロウィン(10/30)用に納入。
ま、番いのお祭りだからいいのです。
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