夜神月はモニターを見つめる。
その夜神を、私が見つめる。
これが新しい捜査本部の日常。
嘆きのトリックスター。
「ああ、疲れたあ。」
…そして恐らく それもいつもの他愛無い松田の独り言で。
「…早くキラを 死刑台に送ってやりたいなあ。」
聞こえないはずはないのに 夜神月はモニターを見つめたまま。
だから私も、彼を見つめたまま。
…ゆえに松田の呟きは虚空に消え、後にはただ沈黙が残る。
気まずいような松田のため息にも微動だにしない彼を眺め、私は 夜神月にとって今の言葉は取るに足りないことなのだろうとおぼろげに推測した。
「うまくないな。」
…だから、その夜 彼が唐突にそう呟いたときも。
うまく言葉を返せずに 私はただ、黙って彼の瞳を見つめるだけだった。
「…あんまりうまいやり方ではないな、と言ったんだ。」
「何がです」
「死刑台。」
昼に、松田さんが言ってたこと と 彼は付け足した。
「…あの独り言、ですか」
「うん。」
彼はこくんとうなずいた。
ともすると他の雑事に紛れてしまいそうな昼の記憶を引っ張り出す。
「…夜神くんは 死刑反対論者ですか」
「そういうわけじゃないけれど。」
微笑む 彼の笑顔は相変わらず眩しく一点の曇りも無く、まるでこの話題に相応しくは無い。
「キラという存在は、何て言うのかな…大きくなりすぎていると思うんだ。
キラが遠隔で人を殺せ るという事実は、一部ではもはや神格化されてしまっている。」
「神、ですか。彼のやっていることはただの大量殺人に過ぎません。」
「大切なのは事実ではなくて、それが及ぼす影響だよ竜崎。」
「…続けてください。興味深いです。」
「キラは、紛れも無い殺人者だ。けれども、そんな彼を崇拝する人間が居る。
彼らはキラに夢を見ている。
『キラは悪人しか殺さない』、『キラは弱いものの味方だ』と 彼をもっともらしく正当化する…」
「成る程」
「キラには、カリスマ性がある…そんな人物を殺すのは、社会的には得策じゃない。」
「では、あなたならどうします?」
「そうだな…」
彼は腕を組んだ。
「僕だったら、まずはその神性をひっぺがすところから始めるかな。」
−ああ、あなたは何と。
「注意深く、彼の人間性を引きずり出す。彼ははただの人間だということを世間に知らしめていく。」
無邪気に、真剣に。
「マスコミを使ってもいい。キラという虚像を地に落す。彼をただの道化に貶める…」
残酷なことを言うのでしょうか。
「彼 が」
「ん?」
「彼がただの人間ではなかったら。」
「…竜崎?」
「彼が類稀に美しく賢く気高い人間だったら」
「おい」
「彼が 誰もが魅かれずにはいられない人間だったらどうするのですか」
−夜神月、あなたのように−
言えず 私はただ指を噛む。
彼はそんな私を哀れむように 言った。
「お 前 ま で 夢 を 見 て い る の か 竜 崎。」
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trickster(トリックスター):民間伝承や神話などに登場する社会の秩序を乱す一方、新しい状況を生み出す存在のこと。
要するにLが一番キラに魅かれちゃってるんです。
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