テ・デウム
(神なる御身を称えまつる)
『 キ ラ 様 』
ふと漏れ聞いた隣のテーブルの会話に、僕の心臓は僅かに跳ね上がった。
‐…って、どんな人なんだろうね。
冷めた声が即座に返る。
‐大量殺人犯、だろ。
どうせろくなやつじゃない と 言わんばかりのその声に、反論するこれは 少女?
‐神様みたいに純粋な人だよ〜 だって悪い人しか殺さないんだよ!
ああ、どこかで聞いた、感じた、その無邪気な憧憬。浅はかな同意。罪の無い賛美。
それはぼくが常に自分に言い聞かせようとしている類の。
少しずつ、鼓動が元に戻ってゆく。回復する平静さ。
『ククッ 大モテだな ライト』
死神の戯言、煩いだけの。いいから放っておいてはくれまいか。
とりどりの賛同、とりどりの非難。こんなことに煩わされていては神経を消耗するだけと知ってはいながらも。
無意識に 耳を澄ませる、聴いてしまう。
‐悪いやつなら殺していいってのはおかしいだろ。悪いってのは誰が決める?お前か?
‐…わかんないけどぉ。キラ様が殺したやつは皆悪いやつだったもん。
馬鹿な女だ、お前の言うことより その男のほうがよっぽど的を得ている。
そう思う。
知った風な口調は気に食わないけど。
‐『人を裁くな、疑うな。』キリストは、そもそも裁くことすら否定してる。キラが悪人を裁くのは、自己満足だろ。
‐えー…
そう、そのとおり。すべての裁きは 誰かの望み。誰かの満足を補うための手段。
‐……よく わかんないよ……あたし、 キラ様が満足するならそれでいいやぁ。
聞こえる。男の溜息。
生ぬるい笑みに満たされそうになるのを、辛うじて堪える。
僕の味方はこんなにも愚かだと思うと いっそのこと世を儚みたくなってくる。
…それも面白い、神にも比せられるこの身を自ら滅するとは。
ニーチェの言葉を思い出す。
‐ 神 は 死 ん だ ‐
称えてあれ、19世紀の神はただ「死んだ」だけだったけれど 21世紀の神は「自殺」すら行い得る。
愉快な想像に 今度こそ本物の笑みが零れた。
「何 を。
考えているのですか?」
そしてまた僕の心臓は跳ねる、目の前のこの男によって。
そう この男が居た。
こんなにも傍に こんなにも密やかに こんなにも熱を込めた眼差しで僕を 視て。
絡めとられそうだ。
「いや」
僕は微笑む。隣のテーブルを控えめに見やりながら。
「救いようが無い、とね。」
それは正直な感想だったし 僕は嘘をついてなどいない。
何も後ろめたい事など無い。
ああ、でも僕は この男の前でいかなる些細な動揺も見せてはいけないのだと認識する。
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新世紀の神への道のりは険しかったり。
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