Page.19.5      勝負  





 僕は今、新歓コンパなるものに参加している。

 そして例の…L、も、…何故か僕の隣に鎮座していた。

 すぐ帰れるよう入り口の近くに座ろうと思ったのが間違いだったのか…いや、こいつは確信犯に違いない。

「私は夜神くんの隣で。」
 と 座りこんだ奴を拒む言葉を、僕は持たなかった。



「失礼しまーす」
 お通しやおしぼり、ビールなどが運ばれてくる。
 こういう時、入り口付近の人間は少し煩わしいがしょうがない…僕は甲斐甲斐しく皿や何やらを皆に配る。
 Lをちらりと見ると、そんな僕をぼうっと見ているだけだ。
 
 …使えねぇなこいつ…!

 しかし 勿論そんなことは口には出せない。僕はできる限り穏和に言った。

「…僕が箸や何かを回すから、流河は適当におつまみを頼んでくれるかい?」
「はい、判りました。」

 …こいつ、本当にLなのか・・・?



 一通り飲みものが回ると、さっそく自己紹介タイムだ。

 ちなみに 東大の新入生は、一浪なんてザラだ。中には3、4浪した人も居たり、
 また 一旦社会に出てからもう一度勉強をやり直そうと入る人も居る。そういう意味では、Lは取り立てて目立つほうでもなかったが…

「じゃあ、次は夜神くん!」
「はい。」
 僕は控えめにしゃべり出した。

「夜神月、東京出身、18歳です。
 趣味はテニス、将来は警察庁に入って世の中に貢献したいと思っています。」

 素敵、とか正義感強いんだ〜、とかいう声が聞こえる。
 
「はいは〜い、質問!好きなものは何ですか!っていうか、好きなタイプはどんな人ですか!?ぶっちゃけ、彼女居ますか!?」
 畳み掛けるような質問に僕は微笑む。

「食べものの好き嫌いは特に無いよ。
 好きなタイプ…やっぱり、明るくて素直な人、かな…彼女については…秘密です。」
 きゃああ、と悲鳴をあげる女の子に苦笑しつつ、僕は隣の流河をうながした。

「流河旱樹です。よろしくお願いします。」

「よろしくー!」
「名前カッコいいよね!」
「アイドルの身内ー!?」

 ノリのいい奴らがこぞって囃したてる。
 はあ…とアタマを掻く奴に、女の子が続いて質問した。

「流河くんの趣味とか特技、好きなものは?」

「趣味…は…



 
奴は首を傾げつつ言った。
「人間観察
でしょうか…観察した相手の性癖や行動パターンを分析するのが得意です。好きなものは甘いものです。」



 シーン…



 …一瞬にして場が静まり返る…そりゃそうだ。

 それにしても…こいつがLだとしても、バカ正直な答えだ…っていうかバカだ。



「へ…へえー 何か…変わってるね!」
「将来の夢は?お金持ちになりたいとかさ〜」

「夢ですか…富も名声も一通り手に入れたので特にありません。


 シーン…


 …確かに、探偵のLと言えば金も名誉もあるだろう…が…これじゃあ単なるイヤな奴だ;


「あ、あのじゃあ好きなタイプとか…」
「好きなタイプ?」
「…何かさ、好みの傾向っていうか…あるだろ?」
「そうですね…知能が高く、自尊心が極めて強いタイプを好みますね。
 そのプライドを粉々に壊し破滅させる興奮が味わえる…、そんな相手がいいですね。」



 シーン…



 …皆、ヒいてる!間違いなく!って言うか僕もヒく。




「失礼しまーす」

 その時、店員がお盆を持って登場した。
「あ、料理が来た!」
 皆は救われたように 顔を上げ…そして絶句した。


 チョコパフェにマロンパフェ、あんみつに豆腐チーズケーキ、プリンアラモードに季節の果物盛り合わせ…



     全部デザート!?



「いただきます♪」
 流河だけが嬉しそうにフォークを取るが… 皆の顔は引きつっている…
 僕は真っ先に我に帰り、言った。

「おい、まさかさっき…!!?」
「ああ、大丈夫ですよ ちゃんと皆さんの人数分ありますから。
な お 悪 い !つまみにデザート頼むかフツー!!?」
「え、ダメですか」
「ダメだ…いやむしろお前がダメだ!!
「二度言わなくても…」



「何だあれ…」
「ありえねえな、さっきから…」
「首席だか何だか知らねーが、頭おかしいんじゃないの?」



 ひそひそと聞こえる小声の会話。その悪意そのものと言った囁きに、僕はちょっとばかりカチンときた。



「…不慣れなお前に頼んだ僕も悪かった。 あのな、こういうのは料理から頼むのが普通なんだよ。」
「そうですか。」
 流河自身は、何も気にすることも無く 飄々と言い放つ。
 それはそれでハラが立たない事も無いが、他人の意見なんかどうでもいいというようなこいつの態度に
 何となく
 何となく、好意めいたものすら感じ…


「じゃあ残念ですがこれは全て私のものということでv」



 ・・・・・・・・・・・・・前言撤回、空気も読まずに一人甘いものを貪る奴を無視して 僕はメニューを見直すと、素早く料理を見繕い、頼み直した。






 当初のハプニングはともかく、酒席は滞りなく続いていた。

 …一部を除いて。

「流河、夜神。お前達、同位首席なんだってな。」
「はあ…そうらしいですね」
 バカ正直に答えている流河を横目に、僕は舌打ちしたい気分だった。
 さっき陰口たたいてた奴ら。何が言いたいのかミエミエだ。
 
「いや、ほんと凄いよ。」
「俺達とはアタマの出来が違うってかんじ?」
「いーよな〜、ホント。」
「ここだけの話、どっちがアタマいいんだろーなー。」


 …少なくともお前達に計れる次元じゃないことは確かだよ。


「何かさ〜、勝負してみろよお前ら。」
「お、いいね。見たいみたい!!」
 

 …勝負?何を言ってるんだ、こいつら…
「何か僕達の話をしてるみたいだけど…」


 控えめに話しに割って入る・・・・・
                      ・・・・・・僕を尻目に、Lは言った。


いいでしょう。

 今まで絡んでいた奴らは、マジ!!?という表情を浮べる。
 …つくづく、くだらない奴らだ…が、そんなことより僕は急いで流河に言った。

「はは、流河、真に受けなくてもいいんだよ。酒の席での冗談だろう」
「冗談でも構いませんよ。」
 

 ……ほんと、空気読めない奴だよ、お前って。


「…へえ…、余程自分に自信があるみたいだね…」
「そうでもありませんが。」
「自信も無いのに勝負?」
 僕は冷笑した。

「いいだろう、…するかい?」

 勝負を。
 

 そう言う僕の目を見て、流河は言った。

「…酒の席での勝負といえば一気飲みですが…、私はお酒を嗜みませんし、月くんはまだ未成年です。」
「ああ。」


「…そういうわけでどうでしょう。甘味一気食い勝負というのは。」

「…それ、ひょっとしなくてもおまえに凄い有利じゃないか??

「怖じ気付きましたか?」

 …正直ムカついたが、そんな挑発に乗る僕ではない。

「残念だけど僕は、…」

わー流河くんナイスアイデア、さっき注文した大量のデザートも残ってるしね。

「き…キョーコ!」

 何だこの女…!信じられないが、流河の味方かよ!?
 そういえば…、もったいないよね…ていうか面白そうだよね!?と 周りも無責任な雰囲気に変わってゆく…


 結局僕は、「甘味一気食い勝負」をやることとなっていた…





「よーい…はじめ!

 
 くそ。
 自慢ではないが 甘いものはあまり得意ではない。僕は恐る恐る、目の前のクレープを一口食べた。

 う、甘…!

 甘味というのは冷たくなるといっそう強く感じるものだ、ということを思い出す…

 …ていうか…まずい!

 ケーキなどの焼き菓子はともかく、パフェやあんみつは溶けまくって凄いことに…。

 ダメだ…

 ケーキと果物をつまんだところで流河を見ると、奴はちょうど



降参です。



 と 言っているところだった。



 ええー!?



マジかよ!お前から言い出した勝負だろ!?」
だってまずいんですよコレ。こんなもの人間の食べるものではありません

それを食べさせられた僕は何なんだ最悪だなお前!」
「とにかくもう負けでイイです、何なら私がお金を出しますから帝国ホテルのケーキバイキングで勝負しましょう。」



 くそ…イヤミな奴…勝負には勝ったけれど 人間としてのこの敗北感は何だ!!?


 僕は言った。


「待てよ流河。こんな勝負じゃ僕が納得いかない。何か別の方法で戦おうじゃないか。」

「別…といいますと?」

「そうだな…おあつらえ向きに、ここにカラオケがある。これで高得点を出した方が勝ち…っていうのでどうだ?」

「歌ですか。あまり得意では無いのですが、まあいいです。」

 よし!僕は入念に譜面を見ると、リチャード・マークスのRight here waitingを入れた。
 美しいバラードだが、歌唱力が問われる分、皆にアピールできるだろう。大丈夫、僕の十八番だ!


 〜〜〜wherever you go〜〜♪


 全英語の歌詞も危なげなく歌いきる。その余韻に 女の子はうっとりと聞きほれ、男も悔しそうに感嘆した。



「すごーい夜神くん、ネイティブ並みの発音ね!」
「留学してたの?」
「はは、何、独学でちょっとね。」



 ちらりと見ると、流河は無表情に拍手だけしていた。
「さすがですね。」
「いや、まぐれさ。次は流河だけど、何を入れたの?」
「はい…。」
 イントロが始まった…



 ポクポクポクポク…チ〜ン♪



ま〜か〜は〜ら〜はん〜にゃ〜みった〜〜♪



 般若心経〜〜〜〜〜〜!!???



 …危なげなく朗唱していく…、ていうかむしろアブナイのはコイツだった。



 …余韻が消える。ギャラリーの殆どはヒきまくっていたが、何人かの女の子は面白がってきゃあきゃあと流河に話しかけた…

「すごーい流河くん、本物並みの抑揚ね!」
修行してたの?

「はい、独学で少し。」



 …そして機械は満点を叩きだした…



つうかお前それ歌じゃないだろ!?」 
「一応カラオケ勝負というだけで歌の規定が無かったので…」
「く…!」


 
 今や、僕と流河は めらめらと対抗心を燃やしていた。


「これで一勝一敗ですね。」
「ああ、不本意ながらね。やるな…さすがだよ流河…!」
「君こそ…さすがです夜神くん!」



…ははははは!
…ふふふふふふ…!




 ギャラリーは思った。





 この二人怖えぇ!


                              「も…もう、あいつらに関わるのは…よそうな…」
                              「あ、ああ・・・」






「夜神くん…今度は親睦を深めるために テニス で勝負しましょうね…」
「ああ…望むところさ流河!!」


                            〜Page.20 先手に続く〜





***


〜おまけ〜

「夜神月…知能が高く、負けず嫌い…好みのタイプだ…Vv

「L…のやつ、暗くて嘘吐きで…とにかく殺してやりたい類の奴だ…!」












....................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................

 一度はやりたい、新歓ネタ。ネタは相当前からあったのですがコミクスが出るまで待ちました。
 ようやく蔵出しです。何かまた二人が壊れてます… Lはいい声だと思います、私的に。






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送