夜神月は困憊していた。
 それを私は知っていた。





   の 色 は き っ と 何 も か も を 塗 り つ ぶ す。






 彼が何回か私に向かって呼びかけていたのは知っていた、けれども私はいつものように彼を無視した。

 それでも彼が私に何かしら伝えることを諦めることは無いと思っていたから、
 それでも彼が私に呆れつつ「仕方ないな」と笑ってくれるのを知っていたから、
 
 それでも、

 やはり、
 
 私は多少うぬぼれていたのだろう。

 次の瞬間、夜神月は糸の切れた人形のようにくたりとそこに倒れた、まるでドラマのように鮮やかな失神。私は思わず鎖を強く引いた、
 鎖を逃したらそのままどこまでも、床にものめってゆきそうなほど、そのときの彼は頼りなかった。


「竜崎!」


 手首を強く握られる感触がして私は我に返った、
 私の引いた鎖のせいで夜神月は片腕を吊り上げられまるで教者のようにそこに横たわっているのだった。









 彼が何回か私に向かって呼びかけていたのは知っていた、知っていて私はあえて彼を無視した。彼が倒れるまで私は彼のことを考えないようにつとめて考えないようにしていたのだ、積もりゆく彼の疲労も見過ごして。

 過労のため、死んだように眠る夜神月の顔は紙のように白かった。



 どうしてこんなことになるまで…



   「どうして気付いてやらなかったんですか月くんはいつだって竜崎のことを優先して睡眠なんかろくろく摂ってもいなかったのに」
   「やめろ、松田」



 どうしてこんなことになるまであなたは…









 目覚めた彼の顔はいくぶんかげりを帯びていた、かげりを帯びていてなお彼は美しかった、
 ずいぶん寝てしまったのかな?と起き上がる彼に、私は尋ねた。


 「なぜ…拒絶しないのですか」

  なぜ私の言葉をなぜ受け入れるなぜ自らをしてまで…



「なぜ…?」
 彼は 困ったように笑った。

「なぜかな…」
「はぐらかさないでください」
 はぐらかしてなんかないけど、と 彼は言った。

「お前の気の済むまで、やればいいと思ったんだ」

            そうしなくては・ならないような・気がしたんだ。



 それはむき出しだった、それ以上でも以下でもない真実の姿…そういうものはいつだって、少なからずひとのこころをうつもので…

 むき出しなもの、脆弱、無防備、自分を守る殻など・まして棘など無い…

                                               殉教者?

 あなたはそうやって生きてきたのですか、そうやって何もかも受容して生きてきたのですか、
 今まで・そんな・そのままだなんて嘘だ・奇跡に近い…、と私は思った。


「…白すぎる」
「りゅうざき?」




         しろすぎる、

         めをとじてもまなうらにのこるあざやかなまでの

         あなた。









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 しろ と くろ は、反転する真実。

 「犠牲」「生贄」「差し出されたもの」としての白月。
 それをむさぼる黒月。

 どちらもライト、どちらもおなじ…




                                           

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