た た  ほど   く








「グリム童話はお好きですか」
 
 問いかけに、あなたは一瞬怪訝そうに眉をしかめる。

「君の口からグリムなんてメルヘンな単語が出てくると、びっくりするね。
 何? 流河ってけっこう、ロマンチスト?」

 
 軽口をたたくあなたに私は言う。
「『豚殺しの話』という話をご存知ですか?」

「…前言取り消し。何、その血なまぐさいタイトル。」

「子供が皆で集まって、豚殺しごっこをしよう、と言うのです。
 そして屠殺役の少年が 豚役の子供を本当に殺してしまう。」

「それで?」

「罪を犯した少年を裁くために、大人たちは銀貨と林檎を用意する。
 銀貨を選べば死刑、林檎を選べば 邪な心の無い 純粋な子供であることが証明されるので、
 無罪…というわけです。」

 あなたはつまらなそうに言った。
「中世ってのは単純でいいね。」

「もちろん少年は林檎を選んだので、無罪。めでたしめでたし、というわけです。」
「殺された子供を抜かしてね。」

「私は逆だと思ったのですよ。」
「逆?」


                         そう、夜神月。


「林檎を選んだ子は有罪。
 純粋な子供であったなら、その価値など知らずとも
 きらきら光る銀貨に目を奪われることでしょう。 
 それでも林檎を選んだ、ということは」


                         あなたなら どちら を 選びますか?


「意図的に純粋さを演じていたのではないのか      と。」




 相変わらずつまらなそうに話を聞いていたあなたは 小さく伸びをして呟いた。
 

「面白い見解だけど、僕の意見はちょっと違うな。」
「と 言うと?」



「林檎を選んだ子は有罪。

                               何故って、林檎はの果実だから。」
 


 そう言って哂うあなたに、私は何度でも思うのです。




 ああ、なんと   あなたの笑顔は。
 
    罪 を語るときですら    


                       鮮やかに  美しい















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 このお話、版が重なるにつれ 途中で削除されてしまったそうです。怖!(現在は再録されたものを岩波文庫で読むことが出来ます)











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