慄の鍋パーティー〜





「寒くなってきましたねぇ」

  それは、松田の不用意な一言から始まった。

「そろそろ、鍋の季節ですかねぇ……」




 月は思わずぷっと吹き出した。

「何、月くん。」
「いえ・・・さっきから窓の外を見つめて、何をため息ついているのかと思ったら・・・」
 月はくすくす笑いながら言った。

「はは、やだなぁ見てたの?」
 松田は頭を掻いた。
「すいません。どうしたのかなと思って…」
 月はにこやかに言った。
「いいですよね、鍋。湯豆腐とか、海鮮鍋とか。」
「きりたんぽもいいよな〜」
 和やかに会話する月と松田。

 …一人、会話に加われないLは構って欲しいオーラ全開であさってのほうを向いている。

 そんなLの様子に気付いた月は、気を使って話しかけた。

「えっと…竜崎は 好きな鍋…、ある訳無いか。」
答え聞く前に断定ですか!?ありますよ私にだって好きな鍋料理くらい・・・」
「え ホント!?」

チョコレート・フォンデュです。」

「・・・・・・・・・君に話を振った僕が悪かったよ・・・・・・・・・・・」

 月はくるりと松田に向き直ると、うっとりと鍋を語る松田に相槌を打つ。

「やっぱり冬は石狩鍋かな〜」
「ちり鍋もいいですよね」
闇鍋なんてのもあるよなぁ〜」
「や、それちょっと違いますよ松田さん」

 あはは、と笑う月と松田に Lがぴくりと反応した。 

ヤミ…?それは、いまだかつて聞いたことがありませんが…」

 松田が律儀に説明する。

「闇鍋って言うのは、暗闇で 一人一品ずつ好きな食材を持ち寄って、鍋に入れるんですよ。
 何が入ってるのか食べるまで判らないし、いったん箸をつけたものは必ず食べなくてはいけないっていう、ゲーム感覚の鍋です。」

…面白そうですね
 Lは爪を噛んだ。

「いや、そんなに面白いものでも…」
「ある意味 肝試し みたいなものだし…」

 言いよどむ二人に、Lはますます奮い立った。

 月と松田に共通の話題に加われないのがよほど悔しかったらしい。

 …結局竜崎の強い希望で、闇鍋パーティーが催されることになった…



 当日の参加者は 月、竜崎、アイバー、ウエディ、ミサ、松田、模木。



「ウエディさんもアイバーさんも、良かったんですか・・・?」
「ジャパニーズ鍋パーティー、愉しそうじゃない。」
 謎の微笑を浮べるウエディ。

「持ち寄り形式のパーティーと聞いてきたけど、ロシアンルーレット鍋だって?なかなかユニークじゃないか。」
 アイバーもにやりと笑い、席に着く。

 …一体何を持ってきたのだろうか。
 不気味に思いながらも、松田は不承不承席に着いた。

「はー…何で僕が入ってるんだろ…」
「松田さん、言いだしっぺが責任を取るっていう言葉知ってます?」
「月くん…あの、笑顔が怖いんだけど…」
「オトコでしょマッツー!モッチーを見習いなさい!」
「ミサミサ…」
 寡黙な模木は話をふられてふっと笑った。
「余裕〜!さすがぁ!!」

 いや…それは諦観の笑みではないだろうか。。と言いたいのを、松田はぐっと堪えた。



「竜崎、ちゃんと食材を持ってきたか?」
任せてください。月くんは何を用意したんですか」
「それを言っちゃあ面白くないだろ。じゃあみんな、電気を消すから具を入れて。」



 ぽちゃ ぽちゃん…



「…何か…酒くさい!」
「…誰か、ワイン入れましたね??」

「イエ〜ス、最高級赤ワインです。」
 アイバーが得意そうに言った。

「ああ、せっかくのワインが…もったいない…」
 松田が情け無さそうに言った。
「…のっけからヘヴィな香りだな…」
 月が呟く。暗くてよく判らないが、鍋の中はきっと紫色をしていることだろう。



 予め順番を決めておいた通り、、ミサ、松田、模木、アイバー、L、月、ウエディの順で食べることになった。





「じゃ、まずはあたしね!」

 ミサは箸の先に刺さった塊を勢いよく口に放り込んだ。

「ど、度胸ありますねミサミサ…」
 松田が恐れ入ったように呟く。
 
 …が、ミサは三秒と経たないうちにふきだした。

まっず〜い!!!! 何コレ!大根???」
「あ、私です」
 模木が頭をかきかき言う。

「青物がないと健康に悪いと思いまして…」
「ミサさん、仮にもアイドルなんですから噴出すのは…」
「いや〜!不味い!アイドルでも不味いものは不味いの!!!

 涙を浮べんばかりのミサに、月は持ち前の優しさを発揮した。
「ミサ、女の子なんだし 無理しなくてもいいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・ミサ?」
「・・・・・・・・・・うふふ〜〜ライト〜、やさし〜〜〜〜V
 がばり、と月に抱きつくミサの顔は暗闇の中でも判るほど赤くなっている。

「ねーライト、よく考えたら暗闇の中、若い男女が二人・・・Vvこれって運命っ!!?
どこが二人ですかこの酔っ払いが。
 Lがぐいと月を引き寄せる。

「…あら、L。積極的ね。」
「・・・ウエディ!?
「ライトはそっちよ。」

「ふふん、りゅうざき〜 らいたいあんた態度でかいのよ〜 ね〜ライトV」
 抱きついたままけたけた笑うミサ。
「あの、すいませんミサミサ…僕 松田です…」
「げっ!!嘘っ!?まぎらわしーのよっ!」
「残念ですがミサさん、月くんは私が確保しました。」


「いや、竜崎…それ模木さんだから





 ・・・いい感じに錯綜しかけたところで、松田の番である。

「次は僕ですね〜 うわ、怖いなあ!」
 おっかなびっくり箸に引っかかったものを眺め、松田は眉をしかめた。
「…・・?何か…、この三角形、どっかで見たことあるような…」

「ミサでーっす!京都名産、おたべVv」
う わ あ

「何か、文句ある!?」
「い いえ…」
 松田は観念しておたべを口にした。
「おいしいでしょう〜〜」
「…ワインの風味とあんこがどろどろの餅と合わさって絶妙のハーモニーで す ・・・」
「わーマッツー 気に入ったんなら全部食べなよホラ♪
「え・・・!?」


 (竜崎を除く)一同((((自分でなくて良かった・・・))))


「松田め…甘いものを独り占めしようだなんてそうはいきませんよ・・・!?」
「竜崎、お前…甘いものなら何でもいいのか;」





 次に模木は、引き当てたものを慎重に口に入れる。

「…どうやら…何か…崩れかけたスポンジケーキのような…」
 もごもごと訴える模木に、Lが言った。

「ああ、それは文明堂のカステラでしょう。」

 ・・・・・・3時のおやつどころか ワイン鍋にぶちこまれていようとは、文明堂の職人さんも男泣きに泣くであろう。

 松田は慰めるように言った。
「…ま、まあ、ワインにビスコッティを浸すようなもの、と思えば思えなくも無いですもんね、あはは…」
「…ええ、まあ。味はともかく…」



 模木は言いにくそうに呟いた。


…あの、薄紙が付いたままなのが一寸・・・

 ぺっぺっと紙を吐き出す模木。寡黙に耐えているのが哀愁をそそる…


           松田(…よく平気ですね模木さん…)
           模木(このくらいはまだ予測範囲内でしたので…)





 次いでアイバーは何か大きな物体Xを探り当てる。

「…オオモノが釣れましたね…」
「これは…するめでしょうか?」
「するめ???何ですかそれ。」
「イカを乾かしたもので、日本の伝統的な保存食品です。」

「あの…僕です〜 ごめんなさい…」
 松田が恐る恐る申告する。

「いいダシが取れると思って…」
「…仕方ないな。」
 アイバーは苦笑した。

「箸は流石に使いにくいから、ナイフとフォークでも宜しいかな?」
 優雅に皿の上のふやけたするめを食するアイバー。
 
 シルエットだけなら、一流料理店でフォアグラを食べる紳士のようだ。
 月が感心したように呟いた。


「アイバーさんって大人だな…」
…私だって負けませんよ!
「何対抗心燃やしてるんだ竜崎。」




「とりゃあ!」
 Lは勢いよく箸を鍋に突き入れた。

「その掛け声は必要なのか…」
気合です。」

 Lは箸の先に手ごたえを感じ、引っ張りあげた。

「これは…!?」


 ずるり。引き出したのは、これもまた 何か得たいのしれないモノ。

「えっと…どこかで見たことありますよねこの形…」
「ええ、日常的にものすごくよく見かける気がします…」
「そうそう、今日僕の履いてるアレにそっくり…」



 …そう、これは…靴下???!!!



 絶句する一同を尻目に、月がにっこり笑った。


「竜崎、よかったじゃないか。好きなんだろ?白い靴下。


 入れたのは月(くん)かーーーーーーー!!!



           松田(無邪気なようで一番怖いな、月くん…)
           模木(そもそも靴下って食べ物じゃないですよね…)



 Lはしばらく凝固していたが、やがて静かに問いかけた。

「月くん…質問があります」
「何?」
「これは使用済みですか???


 (一同)それを聞いてどうすると!!!!????


            
松田「ていうか使用済みだったらいくら月くんでも殴るよ僕は;」
             模木「ま、松田…落ち着け…」


「はは、大丈夫。綺麗に洗ってあるから新品同様だよ。
「「「「・・・・・・・・!!」」」」
 爆弾発言にしばし時が止まる。

それを伺ってやる気が出ました。フォークとナイフを!!!
「「「「・・・・・・・・・!!!???」」」」


 食 べ る 気 満 々 だーーーーーーーーーーー!!!???


 やばい…色んな意味でこの人達、やばい!!!

 そんな中、月は更に追加の爆弾を投下した。


「気に入ってもらえてよかったよ。父さんに感謝しなきゃね、はは。」
「!!!!!!!」


         松田「局 長 の ですか!!!???」
          模木「…言うな、松田…」



 ・・・お通夜のような雰囲気でのそのそと靴下を切り分けるLを横目に、月は箸で鍋をかき回した。

「じゃ、僕の番だね。と言っても、もうあらかた出尽くしたみたいだけど…」

「そういえばウエディは何を入れたんだ?」
 アイバーの問いに、ウエディはタバコから唇を離し 答えた。

「何にも無かったからありあわせ。手作りクラッカーよ。」
「ああ、粉モノなら溶けちゃったかもしれませんね〜」
…ふふV
 ウエディが笑うのと、月が箸を引き上げかけるのはほぼ同時であった。

 月が慎重に箸に引っかかったそれを検分しようとした瞬間…


すぱーん!


 
箸の先が 弾けた。 

「・・・もしかして・・・(音が出るほうの)クラッカー!!??

 
あたりウエディ特製、対闇鍋用防水加工済みクラッカーよV」



 (((((いや そんな小細工 心底要らないから;)))))

 全員の心の突っ込みも虚しく、クラッカーは盛大に弾け始めた。



すぱぱぱぱぱぱぱぱ・・・ボガーン!




                              …鍋 が 爆 発 し た 。



え、えーーーーー???
危ない月くんVv
何 月を押し倒してるの竜崎―!
「あのう、すいませんお二人とも…僕、松田です…」


「ふ…ウエディ、君って奴は全く危険な女だな
ふふ☆ちょっとばかり火薬の量が多かったかしら


「あの…とりあえずそろそろ電気つけてもいいですか…?」

 模木の呟きは、騒乱の中 儚く掻き消えた。



                                         阿鼻叫喚の宵はふけてゆく…









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 月勝利、と見せかけてウエディの一人勝ち。
 それにしても月が素で黒いです。ウエディとアイバーもまたおかしいです。ごめんなさい。
(謝罪の言葉も聞き飽きた…)


















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