ンPart2 〜流河の優雅に甘い罠〜






「夜神くん夜神くん」

 最近不覚にも聞き覚えてしまった声に 僕は深呼吸してから振り返った。
「何だい流河。」
 ともすると引きつりそうな笑顔を精一杯保つ。流河はぽりぽりと頭を掻きながら言った。

「先日美味しいお食事をご馳走になったので、今日はささやかながら
 私がお茶にお誘いしたいのですが。」
「…お茶…?」
 
『おお、面白!な誘いだな!どうする?月。』
 楽しそうに横槍を入れてくる死神をよそに、僕の思考は緩やかに働き始める。

(こいつ…何考えてる?
 この前の報復…?親睦を深めるための手段?
 と見せかけて実は何かの罠とか…この誘いを断ったらキラっぽいか?
 とりあえず無難な答えをして様子を見るか…)

「有難う。でも気にすることは無いんだよ、またの機会にで」
「では決まりですね。どうぞこちらへ。」
(人の話最後まで聞けよ!っていうか今からかよ!
「まだ四限があるんだけど…」
「大丈夫です、アフタヌーンティーですからお時間は取らせませんよ。」

(アフタヌーン…これは自分がイギリス出身だと言うことをアピールするための罠か…?)


 そう思索する僕の前に次々設置されてゆく家具…家具・・・?
「ってどっから持ってきたこの高級家具一式ー!?」 
 しかもティーカップとポットはウェッジウッドの最高級品だ。


「はい、夜神くんのために本国からわざわざ最高級品を取り寄せました。」
そんなこと訊いてないよ。時間取らないって、まさかここでお茶するつもりなの!?」
「皆さんお弁当などを学内で食べてるじゃありませんか」
「いや…そりゃそうだけど…」
 キャンパスに突如出現した英国風カフェに、学生や教授たちは見て見ぬふりをしながらそそくさと去って行く。
 …正直、視線以上にその配慮が痛い。

 そんな周りのことは意に介さず、心なしかうきうきと流河は言った。
「さあ、席についてください。今日は私がホストですから。」
「は・・・はは。」
 …ホストはそんな座り方しない、と いうツっこみは 白々しい笑いの影に押し隠すことにした。

 
 ワタリが正装でやってくる。僕は憐れみ半分で呟いた。
「こんな仕事もやらされるんですね」
「ええ、まあ」
むしろ嬉しそうだーーー!

「ワタリは一流のティーテイスター(茶葉の品質鑑定人)なんですよ。」
「そうなの!?」

 驚く僕の前にワタリが進み出て、オーダーを取り始める。

「ではまず紅茶の葉をお選びください。
 アッサム・ニルギリ・ウバ・ドアーズ・ルフナ・セイロン・ダージリン・ジャワ・キーマン・ケニア
 各種取り揃えてございます」
「(本当だったーーー!)…じゃあアッサムで。」

「レモンかミルクはお付けいたしますか」
「……ミルクで……」

「種類はいかがなさいますか。」
「は?」
ミルクの種類です。
 ヘリフォード種、ジャージー種、エアシャー種各種取り揃えてございますが」
「……あ…ああ、そう…じゃあその…エアシャー種で。」

 紅茶を決めるのにかれこれ十分以上の問答を終えると、僕はようやくほっとして椅子に体を預けた。
 その途端、またもやワタリがやってくる。
 
「それではサンドイッチのブレッドをお選びください」
(まだあるのかよ!)…もういいよ流河と一緒で…」


 サンドイッチを一通り食べ終わると、スコーンが出てくる。
「この後に焼き菓子、というのが正式なアフタヌーンティーです。」
 平然とそういう流河に 軽い眩暈を感じ 僕は、最高に座り心地の良い椅子にもたれた。


「…本日の焼き菓子でございますが、その前に パティシエをご紹介したいと思います。」

ボンジュール!

 英国風なのに何故フランス菓子ー!?
 僕の心のツッコミに答えるように流河が言う。
「せっかくなので一流の方をお呼びしました。」

 流河は流暢なフランス語でそのパティシエと会話を始める。
 Lめ…フランスの菓子職人を呼んでさらに自分の国籍を惑わそうと言う罠か??

 と、流河がくるりとこちらを振り返った。
「ムッシュー・ダルボワールです。フランス最優秀職人、MOFの資格を持つパティシエにして、
 日本文化に造詣が深く ノダテ(野点)スィーツの探求者です。
 その斬新かつ柔軟な発想力から紡ぎ出されるスィーツの数々は数ある国際コンクールの
 栄誉を勝ち取り、前衛的な創作菓子職人として現在最も注目されている第一人者です。」

「野点…創作菓子…?」
「ええ。」

「…!……・!」
 ムッシューが流暢なフランス語で語り始めると、ワタリがすっと前に出て通訳する。
「本日のスィーツはムッシュー・ダルボワールも満を持して推薦する逸品、
 日本三景をモティーフとした『厳島』『松島』『天橋立』でございます。」


(何か凄い名前付いてるーーー!!!)


 そうして出された皿を見て、僕は更に息を呑んだ。

「まずは『厳島』、ご覧ください、夕日の厳島をイメージしたえもいわれぬ造形美。
 アップルソースと生クリームの繊細なハーモニーをご堪能いただければ…」
 
「た…確かに …美しい…!
 恐る恐る一口食べてまた感動する。

う・うまい!!
 爽やかに鼻腔をくすぐる完熟したソースの香りに誘われた一口がまったりとした口溶けの中に官能を呼び起こしつつも柔らかなスポンジに吸い込まれるように濃厚なクリームが僕を満たしていく!!」

「満足していただけましたか、夜神くん。」

「(く…悔しいが)美味い…!」
 僕は夢中になって(でもあくまで気品を忘れずに)残りの皿を平らげた。

『そんなに美味いのか、月…俺にもその林檎のなんとかのとこだけ舐めさせてくれ』
 背後の死神が物欲しげに何か言ってるみたいだったが、もうそんなことはどうでも良かった。



 勿論、ティータイムが終わる頃には 講義はとっくに終わっていた…



***



 その日の夜。

「ワタリ…どう思う…」

「はい。夜神月の作法は、申し分ございません。
 これならばいつお迎えしても Lのパートナーとして社交界で十分やっていけるでしょう。

「そう思うか。私もだ!」

 ワタリとLとの間に不穏な会話が為されていたことを、月は知らない…









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 第二弾。月も垂涎、魅惑の甘い罠の巻。
 野点スウィーツやら創作菓子やら、お菓子のことはかなりでたらめです。
 



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