召しませニッポン 〜夜神くんのお料理万歳〜
リムジンから降りてくる流河を見つけ ぼくはさりげなく近づいた。
「やあ流河」
「今日は夜神くん」
あなたの方から声をかけてくださるなんて珍しいですね、と流河は続けた。
「そうかい?」
僕は最高の笑顔を振りまく。
これから仕掛ける罠への布石。
さあ流河、見事にはまって見せてくれ。
「実はね流河。ぼくはこう見えても料理が得意なんだ」
「はあ」
「…よければ、ぼくの家に来ないかい?腕を振るうけど!」
「………はあ」
流河は親指を唇に当てた。
真意を測っているのか?当然だ。
しかし今はあの座り方をしていない。お前の推理力も40%ダウン、というわけだ。
その為にわざわざ外で声を掛けたんだからな。
流河が指を噛む。何か言いたげな顔。
何とでも答える用意はしてあるよ?
さあ、聞いてみろ。ぼくは爽やかな笑顔を演出。
…しかし流河はぼくを上目遣いで見上げると…もじもじと頬を染めた。
え?
何その反応??
「…良いのですか」
「はは…勿論じゃないか」
だからそこで無表情に頬を染めるのは何故なんだ??
一抹の不安を感じながら、ぼくは ともかくも計画の第一段階をクリアしたことに満足した。
*
『大丈夫なのかライト』
「何が?」
リュークは興味深そうにぼくの手元を見つめている。
『料理を食わせる、なんて言っちまって。』
「やだなあリューク、このぼくに 苦手なジャンルなんてあるわけないだろ?」
『そうじゃなくて…その…ソレは、あまり食卓で見かけたこと無いんだが…
…そもそも食べ物なのか?』
「ああ、コレ。」
ははっとぼくは笑った。
「出来てからのお楽しみだよ…」
はははははははははは…・・
*
その様子を見つめる影、二つ。
「どう?お兄ちゃん」
「何か、すごく楽しそうに笑いながら作ってるけど…」
「やーん ショック!お兄ちゃんにもついに彼女ができたのかなあ…」
「普通 女の子の方が作る側なんじゃあ・・・」
「彼女にイイところを見せたいんじゃない??」
「・・・あの子が『大切な友人にご馳走するためにキッチンを借りたい』って言う日が来るなんてねえ・・・」
夜神母は複雑なため息を漏らした。
*
約束の時間に遅れず、流河はやってきた。
「いらっしゃい。」
母と粧裕には、外出してもらうように頼んだ。これで邪魔は入らないはず。
ぼくは流河をキッチンまで案内しながら心の中でほくそえんだ。
「なにやら個性的な匂いですね…」
「そうかい?今日は君のために特に頑張って、いろいろ挑戦してみたんだよ」
そしてテーブルの上に所狭しと並べられた料理の数々に、流河は目を丸くした。
納豆、おでん、酢の物、うどん、雑煮、から揚げ、ミミガー(豚の耳)のサラダ、蜂の子、いなご…
「さ、流河!席に着いてよ」
そしてぼくの罠をたっぷりと堪能するがいいよ!
解りやすく言うと、こうだった。
ぼくは、食事の嗜好性には地域の好みが反映される ということを利用して Lの出身を調べようと思ったのだ。
納豆を嫌うかどうか、おでんを何と呼ぶか、酢の物の味付けに対する反応がどのようなものか…
などで関西・関東を見分けられる。(ちなみに今日は、関東向けに濃い目の味付けだ)
うどんのスープ、雑煮のもちが丸いか四角いか、あんこが入っているかどうかで出身地域を割り出せ、
から揚げをザンギと呼ぶなら北海道出身、ミミガーをためらい無く食べられるならば沖縄、
さらに蜂の子、いなごに手を出せるなら長野県出身。
全てにおいて無反応ならば、やはり海外で育ったという可能性が高まる。
食の嗜好は、文化環境に多分に左右される。食習慣だけは容易に変えられないはず…
とはいえ、何もぼくは、確かにこれで流河の出身を特定できると思ったわけではなかった。
ただ、このメニューならさりげなく嫌がらせもできて好都合だと思ったのだ。
言わばこれは、ちょっとした実験のつもりだ。
さあ、流河!ぼくの(完璧な)罠に陥るがいい!
『ライト…お前、やっぱり性格悪いだろ…』
リュークの呟きは無視。
ぼくはエプロンを外しながら流河に料理を勧めた。
「さあどうぞ、ちょっと見慣れない料理も入ってるかなあ…ふふ…無理しないで、
残したければ残していいんだからね流河、残したければね…・」
流河はしばらく無言でテーブルを眺めていたが、
「いただきます」
と 静かに箸を取った。
***
かたり。箸が擱かれる。
「ご馳走様でした。」
「あ…ああ」
そんな…ありえない!
ぼくは驚愕を抑え切れなかった。
『ほー。全部食べきったか。』
リュークののんびりした呟きがぼくをいらだたせる。
っていうか どういう胃袋だよ!
ぼくは 3〜4人分ほどの用意をしていた。
何をどれだけ残したか、ということが推測の手助けになるからだ。
「とても、美味しかったですよ。」
おまけに味覚異常!?
蜂の子、いなごをかっこむか?お前はどこの山奥で育った!?
「嬉しいな…全部食べてくれて…」
ぼくはぎこちなく笑った。
「いえ…」
流河はそんなぼくの顔を見上げ、何かぼそぼそ言っている。
「何だい?」
ぼくは流河の口もとに耳を寄せた。
「夜神くんの作った料理…本当に美味しかったです」
そして やつは ぼくの耳をぺろりと舐めた。
っぎゃああああああ!
声にならない叫びを上げるぼくに、流河は言った。
「…が、夜神くんも美味しそうですね。」
がたがたと震えるぼくに、流河はくす、と口元だけで笑って言った。
「冗談です」
* **
「…サフランライス、香草…コリアンダーか。
犬肉スープ…材料をどうやって調達するかが問題だな…」
『ライト…何読んでる?』
「ああ?『世界の料理百科』に決まっているだろう!」
『(怖!)??』
「今回は日本に限定したのがいけなかったのかも知れない…
物珍しさから食べきった、ということが考えられるからな…
とすると今度は世界規模で試してみなくては…」
『…まだやるのか??』
「当たり前だろ!あんな屈辱は初めてだ!」
『…ライトってやっぱり面白!だな…』
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偏食っ子Lに蜂の子を食べさせるとは、愛の力って偉大ですね(違)。
ライトは絶対お料理上手だと思います。 ちなみに 雑煮のもちにあんこを入れる県は実在するんですよー。
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