〜夜神くんのお料理万歳〜








 リムジンから降りてくる流河を見つけ ぼくはさりげなく近づいた。


「やあ流河」

「今日は夜神くん」
 あなたの方から声をかけてくださるなんて珍しいですね、と流河は続けた。

「そうかい?」
 僕は最高の笑顔を振りまく。
 これから仕掛ける罠への布石。
 さあ流河、見事にはまって見せてくれ。

「実はね流河。ぼくはこう見えても料理が得意なんだ」
「はあ」
「…よければ、ぼくの家に来ないかい?腕を振るうけど!」
「………はあ」
 流河は親指を唇に当てた。

 真意を測っているのか?当然だ。
 しかし今はあの座り方をしていない。お前の推理力も40%ダウン、というわけだ。
 その為にわざわざ外で声を掛けたんだからな。
 流河が指を噛む。何か言いたげな顔。
 
 何とでも答える用意はしてあるよ?
 さあ、聞いてみろ。ぼくは爽やかな笑顔を演出。
 
 …しかし流河はぼくを上目遣いで見上げると…もじもじと頬を染めた

 え?
 何その反応??

「…良いのですか」
「はは…勿論じゃないか」

 だからそこで無表情に頬を染めるのは何故なんだ??

 一抹の不安を感じながら、ぼくは ともかくも計画の第一段階をクリアしたことに満足した。



『大丈夫なのかライト』
「何が?」
 リュークは興味深そうにぼくの手元を見つめている。
『料理を食わせる、なんて言っちまって。』
「やだなあリューク、このぼくに 苦手なジャンルなんてあるわけないだろ?」
『そうじゃなくて…その…ソレは、あまり食卓で見かけたこと無いんだが…
 …そもそも食べ物なのか?』

「ああ、コレ。」
 ははっとぼくは笑った。

「出来てからのお楽しみだよ…」


 はははははははははは…・・




 その様子を見つめる影、二つ。
「どう?お兄ちゃん」
「何か、すごく楽しそうに笑いながら作ってるけど…」
「やーん ショック!お兄ちゃんにもついに彼女ができたのかなあ…」
「普通 女の子の方が作る側なんじゃあ・・・」
「彼女にイイところを見せたいんじゃない??」
「・・・あの子が『大切な友人にご馳走するためにキッチンを借りたい』って言う日が来るなんてねえ・・・」
 夜神母は複雑なため息を漏らした。




 約束の時間に遅れず、流河はやってきた。
「いらっしゃい。」
 母と粧裕には、外出してもらうように頼んだ。これで邪魔は入らないはず。
 ぼくは流河をキッチンまで案内しながら心の中でほくそえんだ。

「なにやら個性的な匂いですね…」
「そうかい?今日は君のために特に頑張って、いろいろ挑戦してみたんだよ」

 そしてテーブルの上に所狭しと並べられた料理の数々に、流河は目を丸くした。

 納豆、おでん、酢の物、うどん、雑煮、から揚げ、ミミガー(豚の耳)のサラダ、蜂の子、いなご…

「さ、流河!席に着いてよ」


 そしてぼくの罠をたっぷりと堪能するがいいよ!


 解りやすく言うと、こうだった。
 ぼくは、食事の嗜好性には地域の好みが反映される ということを利用して Lの出身を調べようと思ったのだ。

 納豆を嫌うかどうか、おでんを何と呼ぶか、酢の物の味付けに対する反応がどのようなものか…
 などで関西・関東を見分けられる。(ちなみに今日は、関東向けに濃い目の味付けだ)
 うどんのスープ、雑煮のもちが丸いか四角いか、あんこが入っているかどうかで出身地域を割り出せ、
 から揚げをザンギと呼ぶなら北海道出身、ミミガーをためらい無く食べられるならば沖縄、
 さらに蜂の子、いなごに手を出せるなら長野県出身。

 全てにおいて無反応ならば、やはり海外で育ったという可能性が高まる。

 食の嗜好は、文化環境に多分に左右される。食習慣だけは容易に変えられないはず…

 とはいえ、何もぼくは、確かにこれで流河の出身を特定できると思ったわけではなかった。
 ただ、このメニューならさりげなく嫌がらせもできて好都合だと思ったのだ。
 言わばこれは、ちょっとした実験のつもりだ。
 
 さあ、流河!ぼくの(完璧な)罠に陥るがいい!


『ライト…お前、やっぱり性格悪いだろ…』
 リュークの呟きは無視。
 ぼくはエプロンを外しながら流河に料理を勧めた。


「さあどうぞ、ちょっと見慣れない料理も入ってるかなあ…ふふ…無理しないで、
 残したければ残していいんだからね流河、残したければね…・」

 流河はしばらく無言でテーブルを眺めていたが、

「いただきます」
 と 静かに箸を取った。


***


 かたり。箸が擱かれる。
「ご馳走様でした。」
「あ…ああ」

 そんな…ありえない!
 ぼくは驚愕を抑え切れなかった。
 
『ほー。全部食べきったか。
 リュークののんびりした呟きがぼくをいらだたせる。


 っていうか どういう胃袋だよ!
 ぼくは 3〜4人分ほどの用意をしていた。
 何をどれだけ残したか、ということが推測の手助けになるからだ。

「とても、美味しかったですよ。」
 おまけに味覚異常!?
 蜂の子、いなごをかっこむか?お前はどこの山奥で育った!?


「嬉しいな…全部食べてくれて…」
 ぼくはぎこちなく笑った。

「いえ…」
 流河はそんなぼくの顔を見上げ、何かぼそぼそ言っている。
「何だい?」
 ぼくは流河の口もとに耳を寄せた。

「夜神くんの作った料理…本当に美味しかったです」

 そして やつは ぼくの耳をぺろりと舐めた。

 っぎゃああああああ!

 声にならない叫びを上げるぼくに、流河は言った。

「…が、夜神くんも美味しそうですね。」

 がたがたと震えるぼくに、流河はくす、と口元だけで笑って言った。

「冗談です」


* **


「…サフランライス、香草…コリアンダーか。
 犬肉スープ…材料をどうやって調達するかが問題だな…」

『ライト…何読んでる?』

「ああ?『世界の料理百科』に決まっているだろう!」

『(怖!)??』

「今回は日本に限定したのがいけなかったのかも知れない…
 物珍しさから食べきった、ということが考えられるからな…
 とすると今度は世界規模で試してみなくては…」

『…まだやるのか??』
「当たり前だろ!あんな屈辱は初めてだ!

…ライトってやっぱり面白!だな…










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  偏食っ子Lに蜂の子を食べさせるとは、愛の力って偉大ですね(違)。
  ライトは絶対お料理上手だと思います。 ちなみに 雑煮のもちにあんこを入れる県は実在するんですよー。

 







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