な 裏。





「十字架の供儀(ミサ)を行う司祭は、キリストという聖体を侵犯している ということはご存知ですか。」

 ホテルの最上階に近い部屋で 優雅なティータイム。
 眼下には どこまでも青い空を映し 魚のうろこのように光る車の列を見下ろして。

「…また前後の脈絡も何も無い話題だね。」

 僕は微かな非難を込めて言った。ここは大学ではない。
 いつもの思考実験のような とりとめも無い会話を、こんな所でまで繰り広げる気は無かった。


「司祭はしかし、無自覚から侵すこの罪を否定する。正に無自覚であるという理由ゆえに。
 彼は聖なるものに近づこうと切望する。そして侵す。」
 

 …Lはあくまで、この話題から僕を放す気は無さそうなので。僕は訊いてやった。

「それで?」

「似ていると思いませんか?」


                  キラのやっていることは生命の侵犯(=罪)
                  キラは聖なるものに近づき、なりかわろうとしている


              
「何の話ですか?」
 そこへ、松田さんがティーカップをかちゃかちゃ言わせながら運んでくる。


「罪の概念と認識主体における差異についてです。」
「つみ???犯罪心理学ですか」
「…まあ、そんなところです」

「二人とも熱心ですね〜」
 それは素直に感心した者のことば。


 ああ、もうやめろ。その男のおしゃべりはもう うんざりだ!


 なのにぼくは、微笑みながら思っても居ないことを口にする。
「さ す が だ ね」
 

「どうも」
 彼は器用な持ち方でカップを受け取ると、砂糖を入れてかき混ぜ。
 続けた。


『聖なるものと禁忌は分かちがたい』『聖なるものへの到達は悪』です」

「…バタイユ?」
 
 僕は眉をひそめながら呟いた。そうだ、思い出した。この論理は。

 Lは目だけでうなずいた。ちょっとだけ愉快そうに。

「神を目指すということは悪を志向すること。
 斯様な理由で、私は キラを悪だと告発するわけですが…」


「なるほどね」
 僕はにこやかにうなずいた。

「でも、僕がキラだったら。」


『悪は侵犯ではない』『悪とは断罪された侵犯であり、罪のこと』
 断罪されなければそれは罪ではない」


                   

「と。         言うと思うけど?」


 Lはじっと僕を見た。
 僕も笑みを崩さない。
 どちらも同じ、無表情ということにかけては。





「は〜、すっかり置いてかれちゃいましたよ。何ですか、何かの引用なんですか」

 はりつめていた空気が 一瞬にして破られる。

 そうだ、忘れてた。松田さんが居た。

「まあ、少しは頭を休めて!はい、どうぞ。」
 松田さんは特に気にする様子も無く 僕にカップを差し出した。
 その様子に毒気を抜かれて、僕は有難うございますと呟く。


「やっぱり凄いな〜月くんは。竜崎の考えてること、全部理解してるって感じで!」(そう、全部理解してる。)

 そして

「竜崎も、今日はやけにたくさん喋りますね。」(なぜなら私は夜神月自身に喋らせねばならないから)

 第三者の何気ない言葉に

「きっと、月くんとお話しするのが楽しいからですね!」((楽しい?愉しい。愉悦ですらある。))

 僕らは複雑な視線を交わす。

                      犯者にし理解者、つつ追い










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 赤字の部分はバタイユ『エロティシズム』よりの引用です。
 松田さんがアホみたいでごめんなさいです…





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