忘却を抱いて
 






 
いっとき、ぼくらの間でLの名は誰もが口にするのをためらうタブーのようなものだった。
 でもそれはあくまでいっときのことで、やがて皆はおそるおそる、彼のことを語りだした。
 彼を悼むための花、彼が好きだった甘い菓子…そんなものを持ち寄りながら、彼についての思い出を語り合った


 そうやって皆、彼のことを『忘れる』ための儀式を着々と進めてゆく。

 仕様が無い、だって忘れなければ生きていけない。彼らは弱いから。
 かくして忘却の正当化が行われ、遠からず皆彼を忘れ果ててしまうだろう、そのときは来るだろう。


 だから、まだ少し後ろめたさを感じているような 彼ら に向かい、ぼくは笑ってみせる。

 れてしまえ、一切を。彼の死を。その犠牲を。

必要なのはこれからであってこれまでではない の だ    と。




 
そうして促し、ささやき、皆彼のことを忘れ果てたとしても、ぼくだけは覚えている。この先一生、気の遠くなるような年月、ぼくだけは覚えている。





                   
 ぼくだけは。






***
 それでもたぶんぼくは狂気に陥ることはできそうにないと見切りをつけたので 正気のまま生きていくしかないのだろう。

  










    間冷却されたかなしみは、一瞬にして心ごと砕けてしまった。




                
フ リ ー ズ ド ラ イ の 哀 し み 








 それが意図したものにせよ、あまりにもあっという間に
は死んでしまった。
 人はこんなにも簡単に死ぬのかとぼくは思った。本当に、それ以外の感想など無かった。



 
ぼくが殺してきた人々も、
 ぼくにこれから殺されるであろう人々も、
 ぼくの意思とは関係ないところで死を生きる人々も。



 
みんなこんなふうに簡単に死んでいくんだ。




                                          
… かやろう









 ***
 やじるしのさきは、Lかもしれないし総一郎かもしれない。


  





 うっすらと、積もりゆく。




      しく忘れて 




 刺すように冷たい雨が、次第に細かくなってゆく。
 このまま、もうじきに、雨は雪へと変わるだろう。しみいるような寒さをこらえ、ぼくは歩き出した。

 そういえば、あいつと一緒に雪をみることはなかった。


 一緒に雪を見なかった。
 と いうのはつまり、知り合ってから一年も一緒には居なかったということだ。




   (初めての友達だと言った。あの言葉を心から信じているわけではないけれど、心から信じたいとは思うくらいには、ぼくも。)




 一緒に雪を見なかった。
 吐く息の白さも、切なくなるようなクリスマスのイルミネーションも、年越しのどこかあまくて忙しない気分も、そういうもの全て包み込むような厳寒の夜空も、この季節だけでもこんなに、こんなに数え切れないくらいたくさんのものをぼくらは共にできなかったし これから共にすることも永遠に 無い。





                    
降り積もる雪の白さで地上が埋め尽くされてしまうように、
                    積もる時間が全ての記憶を上書きしてしまいますように。










 ***
 忘れさせて。

  





  警告@
(L←月)



 
 私は甘いものしか口にしない、それは苦いものをあまりにも見すぎているからだ。
 灼けるような甘さに全てを忘れてしまえればいい。


                      「じゃあ、たまには目を逸らしてみればいい。」




***
 
…お前はたぶん、何もかもを見つめすぎる。





  警告A
(月←L)



  僕は笑う、愉しい時に笑う 快い時に笑う 怒りを覚えた時に笑う
 人を蔑む時に 陥れる時に笑う 騙す時に企む時に殺す時に笑う 僕は笑う 虚しい時に笑う。



                      「だから、あなたの笑みは虚飾に満ちた哀しみに彩られているのですね。」



***

 
…あなたはきっと、自分を騙すことをやめたほうがいい。






 





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