その日の僕は、少し おかしかった。




                           日   



「こんにちは夜神くん」
「………・ん」
 机に突っ伏していた僕は、薄く目を開けて 彼を確認した。

 −ああ。
 僕はともすると眉をしかめそうになるのを必死で堪え 目を瞑る。

 昨夜はベルクソンを読んでいて、あまり寝ていない。空いている講義室に入り込んで、少し休もうと思った矢先だった。

 まったくこいつときたら、僕の行くところは必ず見つけ出して付いてくる。
 …まさか知らない間に、発信機でも取り付けられてたりしないだろうな。
 こいつならやりかねない、ていうか 絶対やりそうだ。
 
 今度 持ち物から洋服の類まで、全部点検しなきゃだな…

 開け放された窓から、風が少し入り込んでくる。
 外はいい天気だ。

 なのになんで僕はこいつと、薄暗い講義等で 二人で…

 『おいライト、こいつ どうすんだ?』

 ああ 間違えた、二人と一匹。…死神の単位は 匹 でいいのかな?
 まあいいや、リューク、悪いけどちょっと静かにしててくれる?
 僕は、

「ちょっと…休みたいんだ…」 

 ずいぶん長い間、僕はそうしてただ ひんやりした机に頬を寄せて
 短い夢をいくつか見ながら 現実にも属している、奇妙な時間を過ごした。

 だから、目覚めたとき 流河がまだそこに居るとは思っていなかった。


「おはようございます」
「…まだ、居たの」
「ええ」
「人の寝顔見るなんて、趣味悪いぞ」
「以後気を付けます。」

 頭を振って、伸びをして。

 そしてふと 呟いてしまったのは、きっと 僕が おかしかったから。

「  って     
       存在すると思う…?」

「そうですね…」
 流河はしばし考えこむ。
 最近気づいたけど、こいつはどんなに馬鹿げた話でも 割と真摯に対応してくれる。
 それは僕だけになのかどうか−僕をキラと疑っているからなのかどうかは判らないけれど。
 そのまま黙り込んでしまったので、僕は答えを催促した。
「どう思う?」
「判りません」
「へえ、流河にも判らないことなんてあるの」

 僕は少しばかり意地悪な気持ちで、でも言葉はあくまでも優しく 追求した。

「形而上学的な議論は好みません。個人の思想は自由ですからね。」
「それはそうだろうけど。僕は流河はどう思うのか聞いてるんだ。」
「判りません」

 同じ言葉を繰り返す流河に、僕は胸の奥にほんのわずかな苛立ちを覚えた。
 この男は、真摯に…実に真摯に、馬鹿げた対応をしてくれるってわけだ。最悪だ。
 こんなのなら、最初から相手をしてくれないほうがマシだとさえ。
 そんな微かな苛立ちが伝わるとも思わなかったが、流河は突然僕の方を向いて 言った。

「わたしが判らないのは 夜神くんがどのような答えを望んでいるかということです。」 

 答えに窮して 僕は視線を逸らした。
…何、僕の望む答えをくれるってわけ?
さすがだね流河、何でも知ってる、何でも解ってる、そんな発言。
「僕は…」
 声が掠れる。
「僕は……」
 本当は僕自身もどんな風に答えて欲しかったのか、よく解らなかった。
 自分で出した問いに囚われる…

「夜神くん」
「ぅわあっ!」
 がたん!と 僕は席を立った。いきなり流河の顔がどアップになれば、誰だって驚くだろう。

「すみません。」
 流河は言った。
「何度か呼んだのですがお気づきにならなかったようなので。」
「あ…ああ、こっちこそ、ごめん。まだぼんやりしてるのかな…」
「すみません」
 流河はもう一度言った。
「ただわたしは、神の存在などに興味ないもので。」
 ちっとも悪いと思ってはいなそうな 無味乾燥なその言葉は、だけど
 流河なりに真剣に答えてくれているのだろうと思う。
 
 こいつのことなんて解りたくもないのに。
 
「神の存在なんてどうでもいいのです。
 私にとっては、現実に存在しているキラのほうが、遥かに興味をそそりますから。」
「… 『らしい』ね、流河。」
「夜神くんはどうなのですか」
「ああ…そうだな…」
 僕は曖昧に笑った。
「小さいころは信じてたけど。」
 勿論、流河はそんな答えでは満足しないだろうとは承知の上で。
「今はいかがですか」
 ほらね。
「今は」

 確信してるよ  と    危うく口に出しそうになる。

「ライトく〜ん、一緒にお昼食べようよ〜」

 腕時計で時間を確認。時間ぴったり。
 さっき、一緒にお昼を食べたいから起こしに来てくれ と 頼んでおいた女の子たちだ。

「今行くよ。」
 極上の笑みで返事をすると、僕は 流河の方を向き直った。

「居たらいいな、と思ってる」

 −居たらいいな−
 その言葉に嘘は無かった。



『おいライト、りん・・・』
「言っとくけど林檎は持ってきてないからね。」
 えええ、と情けなさそうに声を上げる、この背後の存在を。

 僕は、肯定してくれる言葉が欲しかったのかもしれないので。
 



 
               でもそんな風に思ってしまうことも全部きっと、今日の僕が少しおかしいせいなのだろう。












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 ベルクソンはフランスの哲学者で 宗教や道徳についての研究を残してます。
 Lは本気で神なんてどうでも良さそう。 ある意味、「神になりたい!」と望む月の思考パターンとは間逆ですよね。
 私に言わせて頂ければ、どっちもかなり不健全だと思いますが。
 神なんてものは適度に信心、適度に不信心なくらいがちょうどよいと思います。










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