本部の事情 〜初めてのお買い物編〜
「いいか竜崎。」
僕は今、某大手チェーン店のスーパー前で がま口財布を手に 真剣にLと向かい合っていた。
「これが1円。この穴の開いてるのが5円だ。そしてこれが10円。」
「はい。」
「それじゃあ聞くが、ひとつ100円のジュースを三本買ったらいくらだ?」
「300円ではないでしょうか」
「ところが日本には消費税というのがあってね。通常は5パーセント、つまりこの場合は15円上乗せになって315円になる。
まあ、これは今年から内税表示になったので値札を見れば問題は無いだろう。」
「はあ…」
「…やる気なさそうだな。『小銭を見たことが無い』というお前のためにレクチャーしてやってるんだぞ。」
「はい。」
「じゃ続けるぞ。これは?」
「10円です」
「そうだ。しかしちょっと高級な10円だ。」
「?私には違いがよくわかりませんが…」
「よく観てみろ。ほら、これは横がぎざぎざになってるだろ?」
「!本当ですね!」
「これはギザ10と言って、昭和のある決まった時期にしか発行されなかった硬貨なんだ。その価値は一枚約100円といわれている。」
「…思ったより安いですね…」
「ぼくもそう思う。が、なんとなく悔しいからギザ10があるときはなるべく使わないように。」
「判りました」
リューク『…思ったより小市民だな、月…』
ひととおりレクチャーが終わると、いよいよ実践だ。
僕はLを連れていざスーパーの店内へと向かった。
***
言い忘れていたが、僕達は買い物に来ている。
そもそもはマジックやメモ、ファックス用紙など 捜査本部の備品を入手するための、ごく普通の買い物だったが…
…Lがどうしても付いてきたいと言ってきかないので、社会科見学の引率くらいの気持ちで連れてきたのだった。
「月くん月くん」
「何だい?」
「アレに乗ってみたいです」
指差したのはお子様用の買い物カート。買い物用のかごの下にトラックの運転席を模した席がついている奴だ。
僕はにっこりと笑って言った。
「またの機会にな。」
「またっていつですか」
「そうだな…来世か来来世くらいに期待しような。」
リューク(生まれ変わらないとムリなのか!?)
あからさまにがっかりした顔のLを、今度こそ無視する。
甘かったか。
幼稚園児か…いや、いっそ宇宙人の地球見学を案内してゆくくらいの気構えが必要だったかもしれない。
店内は買い物する人々で程よく混んでいる。食品売り場には、あちこちで試食品を宣伝する売り子が声を掛けていた。
「新発売のソーセージです、どうぞ」
「缶ビールの試飲やってます」
「アイスクリームのご試食いかがですか〜」
「いただきます」
早!!
「おいおい、竜崎…」
にこにこと試食を差し出すお姉さんからカップを受け取り、瞬く間に二つ三つ平らげる。
止める隙が無かったので、四つ目に手を出そうとしたら静かにその場を離れようと待機していたのだが。
「いかがですかー?」
「不味かったです。有難うございました。」
凍りつくお姉さん。
…やはりぼくはその場を静かにゆっくりと去ることにした。
リューク『月、林檎…』
月 「黙ってろリューク。」
リューク『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ようやく買い物に専念できる…と、文房具売り場を歩いていると、店内にチャイムが鳴り響いた。
ピーンポーンパーンポーン…
『迷子のお知らせです。』
こういう大きなスーパーではよくあることだ…と僕は聞いていた。次の瞬間までは。
『夜神くん、夜神月くん、18歳が迷子です。栗色の髪に細身の美形男性を見かけましたら至急、カウンターまでお知らせください…』
リューク『ブホ!』
僕 は ダ ッ シ ュ で カ ウ ン タ ー へ 向 か っ た 。
カウンターにちょこんと座るLを見て、僕は一気に脱力した。
「あっ 月くんv」
「こいつッ…迷子はお前だろ!人の名前を軽々しく館内放送するんじゃない!!!!」
店員の失笑する姿が目に入る。くそ…屈辱だ!!
「月くん、どこに居たんですか!?」
「お前の居ない世界にちょっとね…」
「親切なおばさんやお姉さんに甘いものをいただきましたよ、月くんもご一緒すればよかったのに。」
知ってるよ…
「ていうかさ、竜崎。」
「何でふか月くん」
「その…手に持ってるのは何かな」
「ひんへふなははにいははいはおはひでふ(親切な方にいただいたお菓子です)。」
もごもごと、Lは言った。
試食したら美味しかったので欲しいというと笑顔で手渡してくれた、と。
「なるほどね…って…会計済ませるまで開けるんじゃない!!!」
「??」
「何のためにさっき日本円のレクチャーをしてやったと思ってるんだ!小銭を渡しただろう!?買ってから食べろ!」
「あー、はいはい、そういえば」
Lはポケットからがま口の財布を取り出そうとし、
ジャラーン
と…小銭をぶちまけた。
ぷち。(堪忍袋の緒が切れた)
「…・・」
僕は無言できびすを返すと その場を後にした。
「あっ 待ってください!」
「月くん!」
知るか
「月くーん!」
あんなやつ…
「月く「お客様、少々こちらにおいでねがえますか?」
…
振り返ると、屈強なガードマン二人に両腕を抱えられたLが店の奥に連れ去られようとしているところだった。
僕は思った。
ああ、グレイが捕獲されたときの構図にそっくりだな…と。
「…ちょっと待った!!!」
あわてて我に返る。さすがにそれはやばいだろう。Lとして。というか人間として。
***
「…もう二度とやるなよ、頼むから。」
「はい。すいません」
ぽりぽりと頭を掻くLを睨みつける。
『名前は?住所は?職業は?』
と尋ねられ、
『竜崎です。あ、これは偽名です。住所不定、職業は探偵です。』
と馬鹿正直に答えている奴を見つけて 心臓が縮む思いをするのはもう御免だ。
その後、Lは山と積まれた洗剤を突き崩し、エスカレーターを逆走し店員に注意され、
ガチャガチャの順番を子供と争って再びガードマンに捕まりかけた。
リューク「…人間っていろいろ不便だな…」
「いい加減にしろ!!!!」
「すいません…」
「もう帰るぞ!買い物どころの話じゃない!」
「はい…あの。」
Lはごそごそと何かを取り出すと、僕の目の前に差し出した。
それはペロペロキャンデー一箱分だった。
「………何これ。」
「その、月くんに…お歳暮です。日ごろお世話になっているので。」
「…竜崎お前は間違っている。お歳暮って言うのは年末に贈るものだ。」
「そうでしたか。じゃあ単純にプレゼントです。」
「…一箱も要らないんだけど…」
「…買い方がよく判らなかったので…とにかく月くんに、何か差し上げたかったんです。」
僕は今度こそ呆れて立ち尽くした。
「…馬鹿だな、お前。初めて買い物に来たんだから、自分のものを買えば良かったのに…」
「はあ。」
「とにかく僕は、こんなものもらえない。」
「…そうですか」
がっかりするLに、僕は言った。
「…全部はもらえない。だから、半分こ しよう。」
***
「おや、どうしたの?そんなに沢山の飴。」
「ああ、これは…。」
「懐かしいなあ、ペロペロキャンデーなんて。」
「…残念だけど、これは…あげられないんです。すみません。」
「いや、僕は別にいいよ。」
「…そういえば竜崎も 沢山の飴を大事そうに抱えてたなあ…」
首を傾げる松田の呟きは、死神にしか 聞こえなかったらしい。
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チャットで出てたネタ。幾ら何でもここまで社会性が無いわけは無いでしょうが、とりあえずグレイ的に連行されるLを書きたかったので。
最後はほのぼのになった…ていうか本部もはや関係ないです御免なさい。
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