しく無いの?」



                       




 それまで食い入るように見つめていたモニターから目を離し 私の方を見やりながら 夜神月は言った。

 必然的に、彼を見つめ続けている私と目が合う。
 いつもなら不躾な視線を厭うように目を背けてしまう彼は、この時ばかりは 臆せず視線を合わせてきた。

 何を考えている?

 瞳の奥を伺って 彼の真意を捕えようとするけれど。探ってもさぐってもそこにあるのは何の底意も見当たらず。
 結果 私はまぬけに首を傾げる。

「はぁ。」

 そんな私に 彼は少し笑って(ああ、何と屈託の無い 眩いばかりの笑みだろう!)、付け足した。


「人間は社会の中で常に『役割』を持っている。
 例えば…大学生である僕、父さんの子供である僕、或いは 粧裕の兄である僕…'夜神月'という存在は日々の営みと切り離すことはできない。
 なのにお前は これらには無関係だ、常に自分を捨て去る用意を怠らない。」

「お前を知る者はない。」

「自分のことを知るものが誰も居ないなんて 寂しくは無いのか


 ああ そんなこと か、と 私は視線を彷徨わす。


「寂しいと言うのはある物質や感情の欠如です
 人は何かを失ったときに寂しさを感じるのです」

 思い出とか 共に過ごした記憶とか 誰かに与えられた幸福とか
 日々の営みにおいて 私を規定する『役割』とか

 そんなもの持っていたためしが無いから
 持っていないものは失えないから
 だから。

「日常世界において私はただLでありさえすればいい、それ以外の名やそれに付随する『役割』などは所詮 ので    。」

 しかし夜神月何のためにこんな質問をするお前は私の何を探ろうとこんな質問を。
 そう思い視線を戻した瞬間に。


「…ごめん。」


 それは心からの謝罪、育ちの良い彼らしい 素直な一言で。
 しかし私は混乱していた、何を、何故、どうして彼は謝るのだろう?



            (本当はいつも寂しかったのかもしれない 手に入るはずが無いからと欲しがりもしないで)
            (本当はもう手に入れているのかもしれない 失うことを恐れるあまりに私は)



 そう、始めはいつでもただの『遊ビ』に過ぎぬのだ。






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 記憶喪失後の白い月とからから空回ってるL。













 

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