ただここに居ることを願ってはいけなかったの?
そ し て じ ん せ い は つ づ く
コンビニの窓越しに見える空に、迫り来る闇の匂いを感じた。
「日が暮れるの、早くなりましたねー」
ねえ相沢さん、と 振り返ると、相沢さんはまだレジスターのところで、細かい領収書を書いてもらっている最中だった。
「何か言ったか」
店を出てからそう尋ねてくる相沢さんに、いえ、なんでもありませんとぼくは笑った。
相沢さんとぼくははいつもこの調子。ずれている、噛み合わない、整合しない…
でもそんなのいつものことだから、ぼくはもう大して気にしないことにしていた。だってほら、本部はすぐそこ。
角を曲がるときになって、前を歩いていた相沢さんが突然立ち止まった。
「何してんですか」
「お前、何考えてんだ」
はあ?とぼくが首をかしげると、相沢さんは言った。
「お前が何を考えてここに居るのかわからない」
「何を言ってるんですか相沢さんぼくたちキラを倒すためにここにいるんでしょう」
「違う!」
その声が、ちょっとびっくりするくらい大きかったので、ぼくは やだなあもう、周りの人が変に思うじゃないですか、
とかなんとか言いながら、まだ 笑顔を保っていた。
ゆ っ く り と 、ず れ て い く 。
「違う、お前は、お前のやってることは、キラと戦うことなんかじゃない。
ライトくんに、従ってるだけだ!」
それのどこが「違う」のかよく解らずに、ぼくはきょとんと相沢さんを見つめた。
「なあ、悔しくないのか松田、お前、自分で、自分の頭で考えてキラと戦おうと思わないのか、
宇生田がなぜ死んだのか考えたことあるのか」
ああ、そのことなら、とぼくは笑った。
「いいんです」
ず れ て い く 、裂 け て い く 、き し ん で い く 。
「いいんです、ぼく、凡人だから。キラとなんか対決できっこない。
ライトくんみたいに天才なわけでもないし」
そしてぼくは、ちょっとだけ言いよどんだ。
「L、だって」
― Lだって死んじゃったじゃないですか
その瞬間、相沢さんに火がついたような気がした、本当にそのくらい温度が変わった。
ぼくは殴られるかと思ってびくりと体が震えたけど、相沢さんはただ拳を握り締めて、かろうじて低く 呟いた。
「お前がLのことをそんな風に言うなんて」
お前はLのことを信頼してると思ってた心酔してると思ってたそれなのにお前はLが死んでからはまるで何事もなかったかのようにライトくんに従ってるまるでLが居なかったかのよう に
そ れ で い い の か?
「だってライト君は二代目Lですよ」
「違う、ぜんぜん違う」
L・オリジナルに従うことと、L・セカンドに従うことには、天と地ほどの差がある
相沢さんは、自分に言い聞かせてるみたいに呟いた。
そう、それは、ぼくにというより、独り言のような調子だった。
だからぼくは解ってしまった、相沢さんがはっきりさせたかったことは何か、明らかにしたかったことは何か。
「…先に、戻るな」
立ち尽くすぼくをそのままに、相沢さんは角の向こうに消えた。
…解ってしまったのだけど、ぼくは、やっぱり、相沢さんとぼくはずれているのだ、と思う。
いいも悪いも、ぼくは、そもそも、はじめから、
Lに、心酔していたわけじゃ、なかった
Lに、心酔したかっただけ、なんだ
ぼくは信じたかった、何か大きなものを信じたかった、何か大きなものに巻き込まれていたかった、それが警察だろうとLだろうとライトくんだろうとただそこで、ただ居るだけでいいんです、ただ存在するだけでいいんですぼくは、存在していたい、ここに居たい、ただここに
「それくらい、許されたって いいでしょう」
それくらいしか許されてないのだから。
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「歩き出すしかないこの道を」と連鎖。松田の成長、というか成熟、というか腐敗。
或いは実存に関する脇役の叫び。「もっと出番を!」
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