東 応 大 学    物 語   















 その日、東応大学ミステリー研究会・略してミス研の副会長であるは、
 サークル室の豪華ソファにねっころがってイヤホンを着けたまま 雑誌をめくっていた。




「〜〜♪〜〜〜♪」





 いつになくご機嫌な彼女に、真面目に会計仕事に勤しむ後輩が恐る恐る訊ねる。





「何、聴いてるんですか?」
「……秘密☆」



「あ そうですか……
 ところでさん、今月の請求書、さんの分だけまだ出てないんですけど」


 困るんですよね、片付かなくて……と呟く会計(兼書記兼雑用係兼オモチャ)の後輩の顔を、

 は振り返りもしなかった。


「いいわよ別に☆記録つけてないし」

「ダメですよお、会長なんか一円単位で請求してんですから」
「会長はほら、お金ダイスキだから☆」

「てゆーか……、」





 まじめな後輩は不思議そうに言った。





「前々から不思議だったんですけど・何で先輩がこんな会に居るんですか???」






 ……は見たとこ「フツーの女子大生」だった。

 今だって、めくってた雑誌はVIVIとかそんなんだったし

 指先にはピンクのネイル、セミロングのふわふわパーマ、細身のジーンズ・流行のカットソー……


 ミステリーやオカルトより、ファッションやお化粧に興味ありそうな感じ。
 のらくらしてるようでしたたかな会長に騙されるほどお人好しでもまじめでもない、普通の女のコ。





 何で こんな 会に?




「んー………秘密☆」




 秘密なんて単語とはおよそ縁遠そうなタイプのは、そう言うと雑誌を放り出して軽やかに立ち上がった。



「さ・じゃああたしもう行くね☆」

「おでかけですか?」



   おデート☆















 ……待ち合わせ場所には、確かにデートの『相手』がやってきていた。

 ただし、得体の知れない同伴者を連れて。





「夜神くん、このひと誰??」

「ええっと……、」



 困ったような笑みを浮べる夜神月のうしろからひょいと覗く、血色の悪い顔。


「こんにちははじめましてリューガヒデキと申しますあなた夜神くんの彼女ですか」


 一息で喋りこちらを凝視してくる姿勢の悪い男に、はにこにこ笑って首を傾げた。



「あたし『も』??」


「おやご存知無いんですか夜神くんはそれはそれはおもてになるので、ステキな彼女が沢山……」



わああああ!

 わけのわからんことを言うな流河!

 ……やあごめんねトモダチがさんの話をしたらぜひ会いたいってきかなくてその、
 あっ もちろん君がイヤなら今すぐ帰ってもらってもいいんだよ!
 帰ってもらっても!!!



 帰ってもらいたそうな月を意に介さず、は無邪気に喜んでみせた。



「わあ☆お友達に紹介してもらえるなんて感激☆」








              「……随分理解のあるお嬢さんですね」

              「は……はは(帰れって言えよォォォォ!!)」











 ともかくも、デート(もどき)は始まった。



「……どこ行こうか?」

「わたしは甘いものが食べたいです

「お前には訊いてな……「いいですね甘いもの☆あたしも食べたーい!」

二対一ですね、ではあのケーキ屋に」
「わーい☆」





「ちょ……!」



 たちまち意気投合する二人のペースについてゆけず、月は慌ててLの首根っこを捕まえた。





   月「おい!まずは軽くショッピング、それから映画を観て、

     いい雰囲気になったら
さりげなくオシャレなカフェに案内するというぼくの完璧な計画は!?」



   L「……それ何万年前のマニュアルですか月くん」







 ……結局、の希望により 甘味ツアー となった。



「あたし、ストロベリーパフェにガトーショコラにキャラメルミルクラテ」

「わたし、バナナ・ア・ラ・モードに小豆シフォンにホワイトチョコレートカフェ」



 きゃっきゃと並んでメニューを物色するLとに、月は人知れずため息をついた。







      月(……Lがふたり……)







「どうしました月くん、まったく食べてないようですが」

……ちょっと……食欲無くてね……ごめんお手洗……」



 目の前の甘味尽しに吐き気を催し、月はよろりと席を立った。

 きらり の瞳が光る。




 Lとふたりになると、はおもむろにバッグからイヤホンを取り出した。





「失礼、リューガくん☆午後の株式チェックの時間なの」





 言い捨てて悪びれず耳にイヤホンをはめるその手に、男の冷たい手が重なった。





「……なにするの、離して」


 しかし男はイヤホンを奪い、更にコードの先 小型の機械 を奪って、言った。


盗聴とはよろしくない趣味ですね、

 ……いや、美空アケノさん……とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」



「……あなた だれ」



 見据える、……もとい美空アケノの瞳は、もう柔和なそこいらの女子ではない。




「………………もしかして あなたが 『キラ』 なの??」




「わたしはキラではありません」



 リュウガと名乗る男は落ち着いてそう言った。



「じゃあなぜ、どうして」
「……………出ましょうか」

 男はすいと立ち上がると、言った。


「夜神くんには悪いですが あなたと二人きりでお話したいので」













 店を出ると、黒塗りの車が控えていた。



「乗ってください」





 白髪の老人が運転する車に、〈美空アケノ〉は黙って乗り込んだ。

 すべるように発進する車の中、二人の視線が交錯する。







「……あなたが美空ナオミのだという事はとうに判っていました」

「そういうあなたは、一体、誰」


「私は・・・・・・、ナオミ……さんの、元上司です」
「! じゃ、FBIの……?」


 Lは一瞬ためらった。



「……そんなものです」
「……そう……・」



 シートに深く身を沈め、彼女は突然くすくす笑い出した。



「……なぜ笑う?」

あたしが夜神月に近づいたのは間違ってなかった、って判ったから」


「……なるほど、あなたは頭が良い。
 では、頭が良いあなたに忠告をひとつ。

          ・・・・・・探偵ゴッコは、おやめなさい」


「遊びじゃない!!!」

 弾かれたように、彼女は叫んだ。


「なによ警察なんて、FBIなんて何の役にも立たないくせに!!
 レイさんが死んで、お姉ちゃんはキラを追うことに命を賭けてた、

 そんなお姉ちゃんが『覚悟の失踪』なんてするわけないじゃないの!!」


「確かにあなたのお姉さんは、強いひとでした。
 しかし、あなたがお姉さんの真似事をする必要は無い」



てめェの知ったこっちゃねー、よ

 火を噴きそうな瞳の少女に、男は涼しい顔で言った。


「あなたは民間人で、学生だ。
 わたしには、あなたを強制的にお家に連れ戻すことだってできるのですよ?」



「……!」





「留学中のMIT(マサチューセッツ工科大学)を勝手に休学しておいて、
 東応大に来てるなんて……ご両親はさぞびっくりするでしょうね?」





「………………卑怯者」
「なんとでも」
「…………………………………………………………・」




 息詰るような沈黙。
 やがて彼女はのろのろと口を開いた。



「……ひとつだけ教えて」


     ひとつだけ。
     そしたら、もう やめてもいいから。



「なんなりと」





              「……夜神月はキラ?





 率直な問いに。

 Lは答えた。





ひとつだけ

  あ れ は わ た し の 獲 物 で す」














 ……はぐらかされちまった・

 もうちょっと訊きようがあったろうに・どうしてあんなにストレートに訊ねてしまったのか、残念この上ない・

 そう、
 たとえば、

 「あなたはLですか?」って訊ねたら?そうしたら??





 …・真剣な考えを、のんきな後輩が中断させた。



「そういえば最近音楽聴いてませんね先輩。ウォークマン壊れたんですか?」


 ウォークマン。
 に、見せかけた盗聴器
 そういえばあれも没収されたままだ、と思いながら、「先輩」は、にっこりと 笑った。




「・・・・・・ああ、あれね。
 もう聴く必要が無くなったの☆」


「・・・・・・??」





















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作中の名前を偽名にしたら名前変換小説の意味無えんじゃねえの?
 という迷いのためにずっとあげられてませんでした。かっこいいLを目指して玉砕。

 これでドリー夢三部作、東応大学夢物語は完結です。お付き合いくださって有難うございました!



 























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