わがミス研はよそのものとは一味違い、
推理小説の研究や七不思議、怪現象の探求よりはむしろ、実践的フィールドワークを主体としている。
その活動はあくまで本格派なので、その活動はときに非合法的であり、危険を伴うこともある。
もちろんそんな活動を大学側が公に許可するわけはない。
私たちの活動は知る人ぞ知る、言うなれば地下組織……
つまりは、あらゆる「謎」‐Mystery-に関する依頼を請け負う、探偵社のようなものなのだ。
100号館の裏にある秘密の出入り口からサークル室に入ると、そこは真っ暗だった。
伝統ある秘密の小部屋であるこの部屋に、窓は無い。
「……どうしてこんなに暗いのよ……」
「あ、会長、いいところに」
後輩がほっとしたように声をかけてきた。
「あのう、蛍光灯が切れたんですが替えがどこにあるのか分からなくって……」
「そう……仕方ないわね。じゃあちょっと、1号館の講義室から盗って来なさい」
「……は?」
「予 算 が 無 い のよ。
大丈夫、あの角部屋は今の時間は空いてるし・蛍光灯のタイプもナショナルの同じ型だっていうことは調査済みだから」
「……………………わかりました」
……我々の活動は非合法なものであるので、当然 サークル費は全て自前でまかなっている。
多少の切り詰めは仕方ないのだ。
と、蛍光灯を盗……獲りに行っていた後輩が慌てて走りこんでくる。
「会長!お客様です!しかも三人も!!」
*
「では、ご依頼の内容を伺いましょうか」
……蛍光灯が間に合わなかったので、ろうそくを点した薄暗いサークル室で、ぎしりと椅子をきしませながら私は言った。
ろうそくの方が、ソファの破れ具合が分からなくて丁度よかったかもしれない、と思いながら。
一人目の依頼人は、東応大テニスサークルの部長だった。
彼は一息に言った。
「新入生、夜神月と流河秀樹に関する情報を!」
わたしは考え込むように、タバコの煙をくゆらせた。
……ちなみに本物のタバコではない。
喫煙は体に毒なので、会に代々伝わる特別調合したマジカルなハーブのタバコである。
これには、依頼人を身も心もリラックスさせ、全ての隠し事を吐き出させる効果があるのだ!
(←よいこは真似しないでネ!)
「……勘違いなさらぬよう。我々の活動は清廉潔白なものです。
他人のプライバシーを侵害するのは、いかがなものかと思われますが」
テニス部部長はメガネを光らせながら熱弁をふるった。
「頼む!やつらが入れば今年の全国優勝も夢でないんだ!
金はいくらでも出す!!」
「引き受けましょう!」
……我々の活動はけして営利目的ではない。
しかし、とかくサークル活動とは金のかかるものである。
それに、彼らを探ることでわが校のテニスサークルに貢献できるなら愛校精神を発揮すべきでないか!!
「っていうかお金が欲しいんですね……」
「これで蛍光灯の予備が買えますね☆」
*
さて次なる依頼人は、次期ミス東応と目されるK・T女史である。
黒髪のショートヘアがよく似合う彼女は、思いつめたように言った。
「夜神月くんと流河くんの関係についての情報を」
「……勘違いなさらぬよう。我々の活動は潔白な……」
「お願いします!!
最近、夜神くんてば流河くんとばかり一緒に居て……、
……まさかとは思うけれど……あの二人……」
ワナワナと震えだした彼女は、突然頭をかきむしって錯乱し始めた。
「嫌ァァァァ!あァあァァたァしィィいの夜アア神くんんがァアァ!!!」
「お、落ち着いてください!!」
なまじ美人の狂乱なので、迫力はこの上も無い。
私は突然バッグからナイフが出てきても逃げられるように間合いを取った。
しかし幸いなことに、彼女はすぐに落ち着きを取り戻した。
「……ともかく、男同士なんて、そんな……そんな非生産的なこと、許せません!
お願いです、断られたら わたし もうどうしていいかわからない……
いえ、何するかわからない……」
目が。目が怖い。
断ったら死人が出る。かもしれない。
その死人が私か流河か夜神かはたまた彼女自身かどうかは知らないが、私は恐怖した。
「引き受けましょう!」
……我々の活動はけして脅しや脅迫には屈しない。
しかし、学内一の秀才同士がゲイであるならば日本の将来への多大なる損失ではないか。
「っていうかTさんが怖いんですよね……」
「誰だって命は惜しいですものね☆」
*
………………さて次なる依頼人は、今年度新入生、学内一の美形にして秀才のL・Yである。
彼はその秀麗な顔を憂わしげにゆがめ、言った。
「最近、学内でやたら視線を感じるんです……監視されてるっていうか……
一部心当たりがなくもないのだけれど、それはむしろ堂々と視られてるので違うと思うし……
学外のことは自分でどうにかしますから、主に学内のことをお任せしたいんですが」
「引き受けましょう!」
……我々の活動はけして無差別・無軌道なものではない。
ただこれだけは言っておきたい、あらゆる調査に於いて、合理性は何よりも尊ぶべきものであると。
「っていうか犯人の心当たりめっちゃありますもんね……」
「今回はラクですネ☆」
*
かくして多数・及び多重の依頼を受けたわたしは、さっそく調査を始めた。
〜夜神と流河に関するレポート〜
@授業編
夜神と流河はほぼ毎回一番後ろの席に隣同士に座っている。
これは、夜神が座った席の斜め後方……ある人物を観察する際に最も都合の良い席……を流河が陣取り、
それを嫌った夜神がさらに斜め後ろへゆき、さらに流河が……という悪循環の結果である。
A休み時間編
きまって二人だけの共通の話題で盛り上がっている。
なんの前触れも無く見詰め合って居ることすらある。周囲の人間が会話に参加しようにも、必ずとり残されてしまう。
また、トイレ休憩のタイミングは必ず一緒である。
B登下校編
一緒の車で登下校してくるときがある。
しかもそんな日は二人とも必ずやつれている。
あまつさえ
「昨夜はハードだったな……」
「すいません、夜神くんは(*徹夜の作業に)慣れていないのに無理をさせてしまって……」
……などという会話を交わしている。
以上から:
夜神月と流河秀樹は常に行動を共にしている。
ときに夜をも共にしている。
はじめは流河の一方的なストーキングかとも思えたが、夜神がそれをあえて受け入れて居ることから、
この二人の間には何らかの常軌を逸した関係があると思われる。
「……っていうかこの二人って、もしかしてゲイ……?」
「もしかしなくてもゲイですよネ☆」
「……状況証拠は完璧ね。引き続き二人の個人データを洗うわよ!」
*
事件が起こったのは、単独尾行を始めた二日目の夕暮れであった。
曲がり角に消えた流河秀樹を追い、一歩踏み込んだ その瞬間……
首筋に冷たいものが押し当てられ、押し殺した声で詰問された。
それは、老人の声のようだった。
「こちらに来ていただきましょうか」
……一時間後、わたしは目隠しをされて視力を奪われ 手足を拘束された状態で、
先ほどの老人とおぼしき人物に尋問を受けていた。
「分かりました。
あなたがどうしても白状しないのならば、今日明日中にでも東京湾に浮かんでいただきましょうか」
「東応大学ミステリー研究会会長、です。
夜神月と流河秀樹について調査するよう依頼されました。
依頼人は全て学内の人間、一般の個人です。お望みならお名前及びプロフィールその他、お教えいたします」
私はあっさり口を割った。
「強い風にはいくらでもなびけ」というのが、我が会のモットーである。
「……ふむ。あなた、なかなかものわかりの良い方のようですね」
聞き覚えのある声に、私ははっと耳をそばだてた。
流河秀樹だ……間違いない!
流河はその時点で私の拘束を解くと、
「大変失礼いたしました。こちらへどうぞ」
と、丁重にティータイムにエスコートしてくれた。
暗い部屋から連れ出された先は、シャンデリアのまばゆい光にカトレアや薔薇、胡蝶蘭の飾られた上等な一室だった。
白い大理石のテーブル上に用意されたアフタヌーン・ティーセットはマイセン、スコーンにバター&ジャムを沿えて。
くつろぎのひととき、流河秀樹は見かけよりもずっと繊細なしぐさと軽快な話術の持ち主であることを確認しつつ、
私たちは情報交換に勤しんだ。
「……なるほど」
話し合いがあらかた終わった頃、流河はうなずきながら 言った。
「それでは、わたしからもあなたに依頼したいことがあるのですが……」
流河の要求はこうだった。
「今まで集めた私と夜神くんに関する噂を全て売り渡して下さい。
しかるのち、今から言う話題を学内に振りまいてください」
「引き受けましょう!」
わたしは即答した。
……我々の活動はしち面倒くさい理念やら道義感に縛られてはいない。
ぶっちゃけ、面白ければオールO.K.なのである。
*
間もなく、東応大学には以下の噂が流れた。
「夜神くんと流河くんって相思相愛、親も公認の仲で、
将来はフランスかオーストラリアあたりに行って同性結婚するんですって!!」
「りゅうがあああ!」
「おや、マイスウィートハニーではありませんかVvv」
「誰がだ!この噂、お前の仕業だろ!」
「いやあきっと洞察力の鋭い第三者のなせるワザですね、真実とは隠しきれぬものです」
「何が真実だ!」
「外堀は埋まりました、そろそろ観念したらいかがですか♪」
「き、きさまああああああ!」
*
……かくして依頼は全て滞りなく果たすことが出来た。
そして今日もまた、わが東応大学ミステリー研究会に仁義無き依頼が舞い込む……
「会長ォ〜、夜神くんのオリジナルスペシャル写真集『魅惑』、予約完売でーす」
「あと、美術部に依頼しておいた『コアファン限定!流河くんデフォルメストラップ』のデザイン上がってきたんで、
材質とか打ち合わせしたいんですけどー」
「そお、わかったわ」
……構内の地下に新たにしつらえた、空調・採光設備抜群のサークル部屋で、
高級ソファにもたれ、
壁全面にかけられた液晶TV画面のチャンネルを回しながら、
わたしは呟いた。
……仁義無き。
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えー……そのー……これのどこがドリームだ、と言われたら返す言葉もありません。
強いてドリーム的なポイントを挙げればLとお茶してる……くらい?
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