お帰りさい(別名:ご飯にする?お風呂にする?それとも〜以下略)
           
                  
              
                           不倫 (21:00)












 午後九時。
 世界がとっぷりと夜の気配に沈んだころ、
 がちゃりとドアが開いて ミサとリュークが騒々しく帰宅してきた。


ただいまー月vお腹すいたーvvごはんごはん

   
「ただいまー 月 ハラへったー りんごりんご!」



 しかし家の中は灯りひとつ付いておらず、静まり返っている。


「な なにこれ……」

 おそるおそる靴を脱ぐミサの目に、真っ暗な部屋の壁に向かう竜崎が

 ゆっくりと

 ふりかえるのが見えた……



  「お か え り な さ い ・・・・・・」



「ぎゃあああああ幽霊いいいい!!」

   「何をわかりきったことを」

改めて見るとあんたむちゃくちゃ怖いのよ!!!」 

 うんうん、とリュークもうなずく。
「死神に怖がられた……」と落ち込みかける竜崎に、ミサはきょろきょろとあたりを見回した。


「……月は?」
「月くんなら実家に帰りました(真実



「………………え?」



  どさり。
  ミサは衝撃のあまり荷物を取り落とした。


「ら 月が!?まさか!!」  


 ばたばたと家中を探しまわるミサは、やがて床に叩きつけられたエプロン
 テーブルの上に置かれた松田の引っ越し祝いのカップラーメンに、
 愕然とその場に座り込んだ。



「……まさか……このカップ麺が……夕飯??」

   「どこの鬼嫁(だ)(ですか);」



 ミサはカップ麺を手にしたまま、ふええ……と泣きだした。


「そんなぁ、いつもなら『おかえりミサvお風呂にする?ご飯にする?それともぼ・く?って優しく迎えてくれるのに!!!」


   「お前の頭の中の月はどんなキャラだよ!!」
   「いちじるしくキャラ変わってるじゃないですか!!!」


 冴え渡るリューク&竜崎のツッコミも意に介さず、ミサははっとしたように呟く。


「……もしかして……ミサが除霊ばっかりして朝ごはんを作らない「いってらっしゃい」 07:00参照)から……、だから実家に???」


      「ええまあ それは改めた方がいいと思いますけど
      「だな」



  うんうん、とうなずく竜崎とリューク。
  その時、ミサはテーブルの上にまた新たな不審物を発見した。



 来客用茶碗とケーキ。



 それは昼に松田が来たときに用意したものだったが(「出張」 15:30参照)、ミサははっとしたように呟いた。

「……月……まさか……」


    リューク「ああ!わかった、誰か来てて飯つくるヒマ無かったんだな」


 納得するリュークに、ミサがとつぜん 叫 ん だ



浮 気 よおおおおおーーーー!!!」



        「……おいL、お前なんとか言ってやれよ」 
        「いやですよ。わたしココから出たら向こう一ヶ月、月くんに口きいてもらえないんです」



 リュークの言葉に、竜崎はぷいとそっぽをむいた。



 そのとき、玄関から月の声がした。




「ただいまー」




「あ」「帰ってきましたね月く「月ォォ―!」



 ミサはだだだだだと月に走り寄りしがみつくと、わあああと泣き出した。


「何よこのお茶碗!誰か居たの!?誰と居たの!?昼下がりの情事!?美徳のよろめき!!?
 ミサというものがありながらあぁあぁああああ」



 ぼろぼろと泣くミサに、月は困惑して首をかしげた。

「え?え?ちょっと、落ち着いてミサ、とりあえずツッコミどころがわからないんだけど」

「だってだって、月は居ないし、部屋も荒れてるしミサのごはんはカップ麺だし……」
「ごはん?ああ、いや違うよそれは松田さんが……」

「マッツーが?あいつが月を狙ってるの!!?



  「「「いやおかしいだろその解釈!」」」  (←月、竜崎、リューク)



「ゆるせない!!!デスノートに書いてやる!!
 死因は
『駅のトイレに駆け込んだら紙が無くてショック死』って書いてやる!!!


        「そうとうイヤな死に方だなそれ!!」 
        「ミサさん松田にどんだけ恨みがあるんですか……」


 ミサは興奮していて、聞く耳を持ちそうにない。

「仕方ない。最終手段だな」

 月はため息混じりに呟くと、いきなり
 ミサを
 がばっと

 抱 き し め た


      「ウホッ」
      「!!!」



「落ち着け、ミサ」
………………はいv

 瞬時におとなしくなったミサの目を覗き込みながら、月は言った。

「仮にだ。
 もし仮に、松田さんまで幽霊になってうちにいついてしまったらどうする!?


…………………・・・…………………………



     「それは……厭だな……」
     「何か……うっとおしそうですね……」



 ……しみじみとうなずきあうリュークと竜崎。

 ミサは小さな声で言った。
……はあい……

「わかったら、いいんだよ。ミサは、えらいね」


 月はミサの頭をひとなですると、子供に言い聞かせるように言った。


「じゃあ、いいこのミサは着替えて向こうでくつろいでること。
 ぼくは急いで夕飯の支度をするからね?」

はーいvvvv














 ミサとリュークがリビングでテレビを見ている間、月は改めて遅い夕食の準備をしている。
 竜崎はふわふわと宙に浮んでいたが、やがてのろのろと月の背後にやってきた。




「何だ」

      「……それで、ご両親とはお話し、できたんですか」

「ああ。心配するのはわかるけど、もっと常識的な範囲にしてくれって訴えてきた」

      「まあ 大事な一人息子ですからね」

「いい両親なんだけど・ね」

      「松田さんは?」

「帰ってもらった。隣の部屋に関しては、2・3日中になんとかするって」

      「なんとか、って……まさかほんとに引越してきませんよね」

「まさか」

      「………………」

「………………」

      「月くん」

「何だ」

      「わたし、言いつけ守りましたよ。あそこから出なかったですよ」

「何だ急に」

      「えらいですか?」

「……りゅうざき?」

      「いいこですか?」





 月は黙って前を向いたまま 竜崎の頭があると思しきところに手を伸ばした。

 が、

 その手がむなしく宙をかいたので、思わず後ろを振り返った。


 竜崎はすぐ後ろに居た。
 触れえぬ手をおののかせる月に距離をとり、竜崎は目を伏せた。




       「…………わたし、もう、死んでますから」























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 触れたくても わたしはあなたに触れられない
 触れて欲しくても あなたはわたしに触れられない
 だから せめて 言葉が欲しかったんです。

 













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